中日山井大介投手交替について

完全試合まであと一イニングと迫っていた中日ドラゴンズ山井大介投手を九回から岩瀬仁紀投手に交替させた落合博満監督の采配について。
空気読めない、とか批判があるようだが、取りあえず山井投手が豆ができたかつぶしたかで、一杯一杯だ、という話や山井投手自身の談話として最後は岩瀬投手に投げて欲しかった、とか言っている、という段階で、その批判は無効なのだが、そもそも山井投手を続投させるべきではない、という考えも出来る。
一点差である。これが二点とか三点とかであれば、完全試合をやらせるのもいいだろう。ヒットが出た段階で岩瀬投手に交替という手もある。しかし一点差。ホームランが出れば同点。そもそも長打が出ればそれだけでピンチだ。ヒットが出るだけでプレッシャーがものすごくかかる。もしまかり間違って一点取られれば、流れは日本ハムに傾く。万が一逆転され、第5戦を失うことでもあれば、6・7戦は札幌ドームだ。完全に勢いに飲まれるだろう。流れを向こうに持っていかれ、札幌ドームの観客の勢いも考えれば、ナゴヤドームで決めるしかなかったはずだ。私は岩瀬投手への継投は中日の勝因の大きな一つであった、と思うのだ。これで完全試合を見たい、という気持ちになってしまっていたら、完全試合どころか、日本一も逃していた可能性があると思う。私はその蓋然性は高かったと思うのだ。日本一にならなくてもいい、という考えに立たない限り、あの継投を批判することはできない。そしてそれは完全なる敗退行為ですらある。
追記
山井投手のコメント。
「この試合は個人記録は全然いいんで。勝利が優先。ボクも岩瀬さんに投げて欲しかった」(「http://www.sanspo.com/baseball/top/bt200711/bt2007110219.html」)
「(記録の意識が)全然なかったわけじゃない。でも、こういう試合は個人の記録は関係ない。最後は岩瀬さんに投げてもらいたいのもあったし」(「http://hochi.yomiuri.co.jp/baseball/npb/news/20071102-OHT1T00098.htm」)
山井投手の義弟のスポーツ報知福谷祐介記者のコメント。
「快挙目前の交代も、納得していると思う。自分のことより周りのことを考える人だから、勝利のためなら、自分の記録なんて、「関係ない」と思ったに違いない。そんな心優しいところに、姉もほれたんだと思う。」(「http://hochi.yomiuri.co.jp/baseball/npb/news/20071102-OHT1T00097.htm」)
これは集団主義だろうか。個人の記録を犠牲にして集団主義を優先した「日本の悪しき側面」だろうか。多分ちがう。メジャーでも間違いなく交代だろう。人情論に傾けば交代だ。星野仙一氏も野村克也氏も「交代させない」というニュアンスのことを言っていたが、多分あそこではそれでは勝てない。
しかし下手をすれば批判に火のつきかねない状況で山井投手は実に見事な振舞を見せたと思う。
追記2
落合監督のコメントとして日刊スポーツに載せられていたもの。
「オレはな。職人なんだよ。野球を突きつめたいんだ。この世界には野球を食い物にしようとする政治家みたいなやつがたくさんいる。そういうやつに負けたくない。オレは記憶に残りたいなんて思わない。オレたちはプロなんだぜ。結果がすべてだろ。優勝回数が1番多い監督が、1番すごい監督なんだ!」(「http://nagoya.nikkansports.com/baseball/professional/dragons/p-nd-tp0-20071102-277819.html」)
確かに落合監督の野球人生は「野球を食い物にしようとする政治家みたいなやつ」との戦いだったわけだ。名球会拒否にしても、ストライキ支持にしても。