引付頭人奉書

http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20140303/p1#c1394330265においてせいすいえいこ氏とやりとりをし、氏のサイトを拝読する機会を得たので、氏のサイトに載っている史料の中から、私に論評できる史料の検証を行おうと思う。
題材は『東寺百合文書』ホ函にある二通の引付頭人奉書。

東寺八幡宮雑掌申山城国
久世庄事、申状〈副具書〉如此、早広田
出羽亮五郎相共莅彼所、退濫妨
人、沙汰付下地於雑掌、可執進
請取状、使節緩怠者、可有其咎之
状、依仰執達如件、
正平七年二月廿五日       陸奥守(細川顕氏)(花押)
海部但馬守殿

画像は「http://hyakugo.kyoto.jp/contents/detail.php?id=1827&p=4

東寺八幡宮雑掌申山城国
久世庄事、申状〈副具書〉如此、早海
部但馬守相共莅彼所、退濫妨
人、沙汰付下地於雑掌、可執進
請取状、使節緩怠者、可有其
咎之状、依仰執達如件、
正平七年二月廿五日       陸奥守(細川顕氏)(花押)
広田出羽亮五郎殿

http://hyakugo.kyoto.jp/contents/detail.php?id=1824&p=2

それに関する氏の解釈。

 文中の「乱暴人(濫妨人)」は何を指すのかわからない。天皇警護のために治安維持に当たれということかもしれないが、状況によっては、南朝軍と一戦を交えることを覚悟の上で事に当たれ、ということだったと、解釈している。
南北朝時代の戦闘に参加するに足る、長大な刀剣を持っていたからこその前線?投入、根本史料登場だと考えている。
「海部刀」が、この時代に、すでに生産されていたことの、傍証と考えている。

http://1st.geocities.jp/rekisironnsyuu/dainipponnsiryou.html
ほとんど同じなので、氏と同様に海部但馬守宛の文書を検討する。
結論から言えば、これは戦闘の問題ではなく、税の滞納と差し押さえの案件である。それは「沙汰付下地」(現地の権利を保証すること)という文言から明らかである。従って海部氏は前線ではなく、徴税業務に投入されていることがわかる。
読み下し。

東寺八幡宮雑掌が申す山城国久世庄の事
申状〈具書を副ふ〉此の如し。早く広田出羽亮五郎と相共に彼の所に莅(のぞ)み、濫妨人(権利の侵害者)を退け、下地を雑掌に沙汰付け、請取状を執り進らすべし。使節緩怠せば、其の咎あるべきの状、依って執達件の如し。

訳。

東寺八幡宮雑掌が申す山城国久世庄の事
原告からの上申文書はこの通りである。早急に広田と共に現地に行って、被告を排除し、現地の権利を原告に保障し、請取状を提出させよ。使節に抜かりがあれば罪に問われるであろう、以上、仰せを伝えるものである。

自分の言いたいことを主張するのに(海部刀の話)に懸命なあまり、史料を誤読する典型的なケースである。そしてかかる史料の扱いは、レイシズムやセクシズムと並んでしばしば歴史修正主義の温床ともなる。
追記
氏のサイトでは「緩怠」が「緩急」となっているが、文書を見る限り、どこからどう見ても「緩怠」(けたいくわんたい)である。どこの誰がそんないい加減な釈文を作っているんだ?
追記2
大日本史料』を見てきた。しっかり「緩怠」と書いてあった。どこの誰が「緩急」などといういい加減な(以下ry)。