本日の難問

随筆文。白井健策「『天声人語』の七年」。なぜか教育関係者は朝日新聞が好きで、出題も多くは朝日新聞。受験に携わろうと思っていらっしゃる方は朝日の講読をお勧めします。イデオロギー的に左で肌に合わない、という人は必要経費と思って受験に関係する間だけでも。それくらい出ます。
問題文の抜粋

キーンさんの次のような発言も、字を書くことを仕事としている私にはまことに興味深かった。「執筆者としては、やはり自分にとって納得できることばでなければだめです。つまり、私の年齢の人が若い人のことばで物を書こうと思ったら、失敗に終わるに決まっています。自分のことばじゃないからです。私が若い人に迎合して使うことになってしまいます。そういうことですから、私自身は、むしろ自分の年齢より上の人の英語とか日本語を使うことが多いです。」

問題
「まことに興味深かった」とありますが、筆者はどんなことを興味深く感じたのですか。簡潔に答えなさい。
 
解説
「キーンさんの次のような発言」が「興味深かった」とあるのですから、基本的にはドナルド・キーンさんの発言、すなわち「 」内部の全体のことをいっているのだということは、お分かりいただけるかと思います。しかしこれを全文写したら、まず点はないでしょう。ということはキーンさんの発言を要約する必要があるわけです。
こういう、要約を必要とする問題の場合、中心文を探します。中心文とは、文字通りその段落内部の一番重要な文です。個別具体的なことを述べている文ははずします。抽象的・一般的なことを述べている文を探します。従ってこういう問題を理解するためには、具体論と抽象論を理解できるだけの能力が必要です。小六に求めるのはいささか酷かもしれませんが、中学校側の要求はそれです。
まずキーンさんの発言を見て下さい。五つの文からなりますね。

1 執筆者としては、やはり自分にとって納得できることばでなければだめです。
2 つまり、私の年齢の人が若い人のことばで物を書こうと思ったら、失敗に終わるに決まっています。
3 自分のことばじゃないからです。
4 私が若い人に迎合して使うことになってしまいます。
5 そういうことですから、私自身は、むしろ自分の年齢より上の人の英語とか日本語を使うことが多いです。

4文や5文は個別具体論です。「私」という個別具体的人格の事情です。従ってこれらは真っ先に無視。3文は「からです」と理由を述べているので、前の文の事情説明です。従って中心文ではあり得ません。2文は「つまり」とあります。「1文。つまり2文」という形は1文と2文が同じことを言い換えていることがわかります。しかも「私の年齢の人」という形で抽象化が行なわれています。「つまり」とは前の文をわかりやすく言い換えているのでありますから、本来は1文が一番イイタイコトになります。従って基本的には1文を基礎に据えて解答を作成する必要があります。
解答の下書き例
「執筆者としては、やはり自分にとって納得できる言葉でなければだめだということ。」
ただ、この解答には若干難があります。何が「だめ」なのかが分からない。そこで「つまり」以下の2文が生きてくるわけです。2文では「物を書こうとしたら、失敗に終わる」とあります。つまり「だめだ」というのを「物を書こうとしたら、失敗に終わる」と言い換えているわけです。ということで解答は以下のようになります。
「自分にとって納得できる、自分のことばで物を書かないと失敗するということ。」