問題児列伝−作文教室

作文教室というのがある。この作文教室の指導は、はっきり言ってやりたくない仕事だ。こちらの想定の範囲内に収まることはありえない。いつもSBIの北尾CEOが出てくる級の衝撃を与えてくれる。
特に大きな衝撃を私に与えてくれたのは今年無事に志望校に合格したA君。作文教室は基本的に採点は外部委託なので、こちらは書かせるだけだ。A君が四年だった時のこと、作文教室の課題は「くやしかったこと」。A君が手を挙げる。「先生、ぼくこの前自転車買ってもらって、うれしかったんですけど、それを書いていいですか」。ヲイ、課題を読め。「くやしいこと」って書いてあるだろ、という旨を伝えてダメ、という。しばらくしてまた手を挙げる。「先生、阪神タイガースが勝ったことを書いていいですか」見るとそいつは井川慶投手のボールペンを持ち、タイガースの帽子をかぶっている。どうしても嬉しいことをかきたいらしい。その日は井川ノックアウトの翌日だったので、「井川が打ち込まれて、阪神負けてくやしいです」という内容ならば書いていい、と言い渡す。普通はそれで書けるだろ。三年生の問題児でもそのネタで書けたんだから。しかしそいつはどうも「くやしいこと」をどうしても書きたくないらしい。弟に勝ってうれしいけど、ちょっとくやしい、とかいう意味不明の作文を書いていた。どうせオレが読むわけでもないし、まあいいか、と「ええやろ」と容認した。書き直しをさせると、またややこしいし、今更変えようもない。ちなみにそいつの弟はめちゃくちゃ優秀。なんで?どして?
もう一人。親が無理やり受けさせたんだろうな。やる気ゼロ。35分なのに、15分経っても書こうともしない。こちらは色々言うが、そもそも鉛筆を持とうともしない。こういう手合は甘やかさないに限る。少しでも甘い顔をすれば、間違いなくつけ上がる。
私はいった。「どないしたん。書かなあかんがな。」そいつ、いかにも困ったという顔でにっこり微笑む。「ボク、困っちゃうよ」とでも言いたげな顔だ。ちょっとかわいらしい顔をしているので、多分親も教師もこれにだまされているんだろうな。泣き虫らしいし。こういうのを甘やかすと調子に乗るだけだ。さらに言う。「お前が書かんとワシもお前も帰られへんやんけ」(原文ママ)。それでも同じようなほほ笑みを浮かべて私を見上げるだけ。で、こちらもさらに畳みかける。「今日、阪神のナイターあるねん。はよ書いてもらわんと、ナイター見られへんやんけ。頼むで、まじ」(原文ママ)と言ってやると、慌てて書き出した。こちらの本気を見出したのだろう。私は本当にそいつが書くまでは帰すつもりもなかったのだ。その本気を見たということだろう。子供には本気で向き合うのがポイントと再認識した。