宿直事件簿2

正月は宿直にとっておいしい。しかし実家に帰らなくていい人限定だ。私は宿直先が下宿よりも実家に近かったので、正月は常に入っていた。どれだけおいしいか、というと、いるだけでいい。仕事が殆どない。来客への応対と電話対応だけだが、そもそも正月の学校に電話してくる用事のある人など、いない。宿直の友人くらいだろう。校舎も管理棟だけ見回ればいいし、そもそも夕方五時に見回ればいいので、大みそかは紅白を観る。正月は寝正月。さらに飲酒も許可されていた。事務長からは一升瓶の清酒の差し入れ。しかしかなしいかな、この高校の宿直員は酒を飲まないやつらばっかりだった。結局酒は料理酒になってしまう。
こういう天国みたいな生活を送る宿直員の敵がいる。コードネーム受験生だ。正月早朝、電話が鳴る。おかしいな、誰もおれへんのに、と思いながら電話を取ると、「進路部の○○先生いらっしゃいますか」だと。正月の午前七時に学校にいるわけないがな。
受験生にとっては一生に一度のことだろう。だから自分の一大事には先生も学校に詰めて、いつでも自分の悩みに答えてくれる、と思っているのだろう。しかし考えりゃわかることだが、学校の先生にとっては毎年のことだ。正月くらいゆっくりさせろ、というのが本音だろう。ちなみに受験産業には正月はない。私も、大みそかにも正月にもみっちり授業を行なう。