安藤美姫論

予想通り、アメリカのメディアで荒川静香バッシングが行なわれているらしい。「卑怯な女王」ということだ。おそらくフリーでの演技のレベルを下げて金メダルを取りに来たことをさしているのだろう。こういう事態は想定の範囲内である。何しろアメリカかぶれの日本知識人の中にも同様のことを言う人はいる。こういう人は多く「海外メディアでは」とか言って、英語の原文のまま引用したりするのだ。私も「海外メディアでは」とか注釈を付けて英語の原文で引用したいが、私は英語音痴なので、そもそもそこで引用されている英語メディアの内容さえわからない体たらくなので、日本語に翻訳された「海外メディア」しか使えないのが哀しいところだ。荒川静香選手の金メダルの価値についてはすでに荒川静香論で述べた。「海外メディア」の荒川バッシングは、基本的に「競技に勝つこと」の意味を分かっていない人々か、または単にコーエンがこけたことの負け惜しみにすぎない。
前置きが長くなったが、何かといえば「海外メディア」を振りかざして自国を貶める人々が多いからである。パトリオットとしての私は、そういう自虐的な言説に対して対抗言説を打ち出す必要がある、と考える。

海外メディアに、スポンサーの広告塔として来ているだけで、オリンピックの舞台を練習場と勘違いしていると酷評された選手もいましたが、トヨタ、ロッテ(日本企業ではないのにスポンサーになれるのはおかしい)、松下などの企業スポンサーの都合で選手選びをするのはやめてもらいたいものです。TVのコマーシャルを見るたびに、上であげた3つの企業に対する不快感・嫌悪感は日々増大する一方でした。

この「酷評された選手」というのが安藤美姫選手である。これを書いた方はどうも安藤選手のことが嫌いなようで、私のような脳みそだけは筋肉質な愛国者には理解できない心性だ。私は脳みそが筋肉質なので、とりあえず日本選手というだけで応援してしまう。昔はそうでもなく、「オリンピックなんて国家主義が発露される唾棄すべき場だ」なんて考えていたのだが、その点はすっかり転向している。悪評高い成田童夢だって応援しますよ。日本選手というだけで。何か?
というわけで成田童夢選手に続いて悪評が高い安藤選手論。
安藤選手に関する私の一番の印象は「なるとも」という番組。サバンナがパートの内容を紹介するコーナーがあって、サバンナがタコ焼き屋のパートを取材していた時のこと。安藤選手がプライベートで訪れた。偶然安藤選手を見つけたサバンナが突撃取材をしたのだが、その時安藤選手の隣にいた青年が「あ、サバンナさん、知ってますよ」と声を掛けた。サバンナ八木は「自分誰やねん」と詰問した。その時安藤選手が「信成君!信成君!信成君!」と絶叫していたのが印象に残っている。もちろん「信成君」というのは織田信成選手。サバンナ八木が織田選手のことを知らなかったらしい。失礼な。完全プライベートで安藤選手と織田選手がツーショットでタコ焼き屋デート(実際にはコーチらしい女性もいたが)の最中のサバンナの突撃取材にもいやな顔をせず、むしろのりのりで取材に答えていた、という印象がある。織田選手はむしろ生サバンナを見てはしゃいでいた。どう考えてもサバンナよりも織田選手の方が知名度は高いと思うが。
その時の安藤選手しか知らないが、その数分間のシーンを見る限り、礼儀正しく、明朗快活な女子高生、という印象を持った。それが安藤選手に関する第一印象である。
次に安藤選手の顔で印象に残ったのが、浅田真央選手が優勝した時の安藤選手の表情である。悔しさ、嫉妬、対抗心、さまざまな複雑な感情が顔面にむき出しになっていた。その日を境に安藤選手の表情に堅さが見られ、ジャンプが乱れ、演技は冴えなくなっていった。それまで安藤選手は村主章枝選手や荒川選手を追う立場だった。それがまだ追いつかないうちに追われる立場になったのである。しかも軽々と追い越していった。しかも浅田選手がオリンピックに出場資格がなかったことも彼女にプレッシャーとなったであろう。さらに浅田選手がオリンピックに出られないことまでが安藤バッシングにつながる。浅田選手の優勝からトリノオリンピック終了までが彼女の一番つらい時期だったのだろう。昨日のアイスショーでの安藤選手の表情には以前の朗らかさがもどっていたように思う。