塾で騒がせない秘訣

塾講師のバイトが始まる頃。新人は騒ぐ生徒に手を焼いていらっしゃるのではないだろうか。私はそうだった。最初は生徒は騒ぐ。不満を言いに来る。かなり落ち込んだものだ。
そのころの私は、生徒から親しまれることを考えていたように思う。生徒と対等な目線で、生徒の言い分も聞く。物分かりのいい先生。
しかし「物分かりのいい先生」が人気の先生であったためしはなかった。最初はいいのだが、その内に物分かりが悪くなってくる。「な〜んだ」と生徒は思うのである。私はある時、物分かりの悪い教師になったのだ。そのころから生徒の信頼を得られるようになったと思う。
バラエティー番組でダンディー坂野が嘆いていた。ダンディーにサインを貰いに来る人。時間がなくてやんわり断ると、かなり失望された、というのだ。そして言っていた。「カンニングの竹山さんなんて得ですよ。サインいいですか、はい、というだけでものすごくいい人みたい」ここに一つのヒントがある。ダンディーは「いい人」ぽさで売っているから、サインもくれて当たり前、という状態なのだ。だからサインを断れば、それだけで「いやなヤツ」になってしまう。一方カンニング竹山は「いやなヤツ」で売っているので、ファンに普通に接しただけで「いいヤツ」になるのだ。
あくまでも私の個人的感想だが、今の小学生は、教師も対等だと思っている。これは学校でも家庭でも子どもと大人は対等だ、と教えているからだろう。子どもの自己主張を認めているのだ。塾で集団指導を成り立たせようとすれば、そのような子どもと親の意識を打破する必要がある。権威に服従させることを教えることが必要なのだ。もっともこれが必要なのはあくまでも塾において集団指導を成立させるために必要なのであって、社会がそれでよくなるのかどうかは知らない。
私は自分のルールを作り、それを生徒に守らせる。これはあくまでも厳格だ。最近の生徒は生意気なので「なぜ?」と聞いてくる。私は一応議論のプロなので大人相手には負けるが、子ども相手には負けない。本来教師と生徒、というのは大きなハンデを向こうは背負っているわけだ。向こうもこわごわ攻めているのだ。そこで負けてはいけない。「へ理屈こねるな!」と怒鳴るのは逆効果。私はへ理屈にはそれを上回るへ理屈で対抗する。一度やると、大体子どもは承服するし、二度と論戦を挑もうとしないものだ。
藤原正彦氏が『国家の品格』のなかで参考になることを言っていた。

本当に重要なことは、親や先生が幼いうちから押し付けないといけません。たいていの場合、説明など不要です。頭ごなしに押しつけてよい。もちろん子供は反発したり、後になって別の新しい価値観を見出すかも知れません。それはそれでよい。初めに何かの基準を与えてやらないと、子供としては動きが取れないのです。

そうなのだ。子どもに基準を与えることが必要なのだ。少なくとも集団で行動する以上、何らかの基準を与える必要がある。それを与えられるのは、少なくとも教室では教師だけなのだ。
脇明子氏が『読む力は生きる力』という著作で次のようなことを言っている。

「読む本くらい自由に選ばせよう」とか「自由に読ませるのが、子どもの権利の尊重だ」などと言った反論が返ってくることが多いのですが、「自由な選択」が保証されていると言えるのは、じゅうぶんな選択肢と、個々の選択肢についての基本的な情報が与えられている場合だけです。

基本的に子どもたちには、「じゅうぶんな選択肢と、個々の選択肢についての基本的な情報」は与えられていない。そのような子どもたちに「自分で考えてやりなさい」と任せたところで、動きが取れるわけがない。
基本的な生活パターンにしてもそうだ。朝食を食べる。しかし朝が早いので朝食を食べさせる暇がない。夜更かしはだめなのは分かっている。しかし共働きで夜遅いのでそこまで管理できない。だから子どもの生活パターンが乱れる。こういう現状は確かにある。昔のように誰かが子どもを見ているわけではない。こういう意見が返ってきそうだ。
そうだろうか。朝食を食べさせる暇がない、という。朝食を一から食べさせるわけではない。それこそパンでもいいから、朝食を勝手に食べる習慣を子どもに付けさせるだけで事足りる。夜更かしもそうだ。夜○時になったら、自分で寝る。そういう習慣を付けさせるのだ。これは幼児期の生活習慣がそのまましばらくは続く。少なくとも小中学生の間は、そういう習慣を続けるだけでも大分違うだろう。問題は幼児期にどういう生活パターンを身に付けさせたか、である。子どもが起きたがっているので、寝かさずにおいていては、当然夜更かしのパターンになる。夜更かしをする癖がつくと、当然朝寝坊になる。それだけのことだ。共働きの家庭の増加が生活の乱れ、というのは、一種のデマゴギーなのだ。
追記
偉そうに言ったが、わが家のディスカスは夜更かしだ。11時頃ごろ夕食。ちなみに朝寝坊で朝食抜き。学校に行くわけではないからいいか。