塾講師研修で学んだこと

私は今の塾では全く保護者対応をしない。ひたすら国語を教えるのみだ。しかし以前勤めていた塾では保護者対応もやらされていた。そこの塾はむちゃくちゃでバイトの講師にも保護者対応をさせるのだ。だから保護者対応の研修もやらされた。そこから窺える保護者の理想的な有り方を、保護者の役に立つように提示したい。
塾が求める保護者像は以下の通りだ。
1 保護者は生徒を信じていて欲しい。
2 保護者は信念を持ってぶれないで欲しい。
他にもいろいろあるが、他の理想的な保護者像は単に塾のエゴだ。たとえば塾に協力してくれ、とか。文句を言わないで任せてくれ、とか。塾にとっては大事だが、保護者にとってはどうでもいいものだ。
1の「保護者は生徒を信じていて欲しい」というのは、塾サイドの保護者対応に見られるものである。たとえば塾で生徒が問題行動を起こした場合、塾は問題行動を起こした生徒の保護者にその問題行動を告げてはならない。重大な問題行動を起こした場合は当然保護者に告げることにはなるが、その場合、退塾も視野に入れる必要がある。問題行動の始末は塾で行なうのだ。子どもを叱りつけるのは当然であり、反省させる。塾で反省させられて、家でも叱られれば、子どもは逃げ場所を失う。せめて親は子どもの味方をしてやってほしい。これが塾側の言い分だ。言い換えれば、親は子どもを信じて欲しい、というメッセージでもある。
子どもを信じる、ということに関して私には一つのエピソードがある。3歳の時なので私は全く覚えていないのだが、私は3歳児検診で「知恵遅れ」と判定されたのだ。母はキレた。「うちの子どもは知恵遅れでは有りません」とか何とか。結局医師と喧嘩になり、会場を飛び出したそうだ。結局私は3歳児検診を受けないまま、大人になった。母がもう少し賢明ならば、今の私はないだろう。日本では他の生徒の足を引っ張らないように特殊学級に入れられ、隔離されて、「知恵遅れ」のレッテルを貼られる。まあ私は小学校時代落ちこぼれで、特殊学級とは背中合わせの小学校生活だったが。
2については、研修というよりも今の塾での保護者対応を見ていて感じることだ。今の塾では保護者対応は塾長がすべて行なっている。塾長は保護者を怒鳴りつけることで有名な人なのだ。私も毎年電話口で保護者を叱りつけているのをよく聞く。「お母さんがそんなにぶれていては○○君がかわいそうですよ」というのが基本だ。自分の育て方に自信がなく、あれやこれやとぶれるのだ。中学入試は親の意向が大きい。親が受験校選びで信念を持って子どもを導けなければ、子どもは迷う。
これは中学入試に限ったことではあるまい。子どもを育てる時に方針がぶれていては子どもが迷う。一番いけないのが「子どもの自主性を尊重」することだ。「初めに何かの基準を与えてやらないと、子供としては動きが取れない」(藤原正彦国家の品格』)し、「「自由な選択」が保証されていると言えるのは、じゅうぶんな選択肢と、個々の選択肢についての基本的な情報が与えられている場合だけ」(脇明子『読む力は生きる力』)なのだ。