安藤美姫論4

今回は安藤美姫選手の細かい点について考察したい。問題は二つ。選考過程に問題は無かったのか。もう一つは安藤選手自身に問題はなかったか。
まず選考過程である。スポンサーの問題と指導者の問題に分けられるだろう。スポンサーについては、安藤選手がパナソニックトヨタのCMに、荒川・安藤・村主選手がロッテのCMに出演していたことで、スポンサーありきで選考が行なわれたのではないか、としている点である。この意見は全くあたらない。選考は昨日のエントリでも言及したように、過去二年間のポイントで選考される。ポイントを再掲すると「1位 浅田真央 2451点、2位 安藤美姫 2215点、3位 村主章枝 2150点、4位 荒川静香 2060点」となる。そして浅田選手については日本スケート連盟は出場を国際連盟に打診して断られたのだ。有資格者の中で一位の選手を外すにはそれ相応の理由が必要だ。中野友香里選手や恩田美栄選手を押す声もネット上では根強いが、それこそ「情実」につながる。それで失敗すれば確実に連盟は責任を問われるだろう。安藤選手を選べば「規定にしたがって」ということで、連盟の責任は問われない。冒険を避けた判断であった、ということが言える。2005年度シンボルアスリートの選考も、2004年度末の段階で上から3人を選ばれた、ということで、これもある意味やむを得ない仕儀であるといえるだろう。
指導者の問題であるが、城田憲子日本スケート連盟強化部長の指導を受けていたことがあるのは村主・荒川両選手である。城田強化部長と対立関係にあるとされる山田満知子コーチが指導したのは浅田真央・恩田・中野選手である。恩田・中野両選手が選ばれなかったのは城田部長との対立関係が背景にある、と分析する見方もあるが、うがちすぎた見方である。逆にこの二人を選んでいれば、ポイントを覆すだけの論拠が必要であり、失敗した時には責任問題すら浮上する。さらに言えば、安藤美姫選手は城田部長の指導を受けたことはない。
ということはスポンサー絡みとか指導者絡みで選考が不透明だと言っている人々は、そもそもシンボルアスリート制度も、その前提となるポイント制も知らなかったことになる。しかしそんなことがあるだろうか。全く無知でにわかファンの私が一時間ネット上を検索しただけで出てくる情報を、仮にも口角泡を飛ばして安藤選手をバッシングする人が知らない、ということは普通有り得ないだろう。考えられるのは二つ。一つは、そもそもフィギュアなどに全く関心が無く、安藤選手をバッシングしたいだけの人。もう一つは、知っているが、安藤選手をバッシングしたいために口をつぐんでいる人。
次に安藤選手自身に問題はなかったのか、と言う問題。私は安藤選手のファンではない。フィギュアでは村主章枝選手のファンである(笑)。理由は、ジャンクスポーツ浜田雅功氏にいじられることが多いから。特に関心が無ければ、そういう基準でファンになるものだ。荒川選手がトリノの舞台で回転の難度を下げて金メダルをとったことで、フィギュアへの関心が出てきたのだ。普通の人とは逆に難度を下げたところに、競技としてのフィギュアの楽しみ方を見出して、いまこうして論じているだけなのだ。
村主ファンから見れば、安藤選手には問題はおおありだ。体重管理に失敗した。これにつきる。疲労骨折も体重増加が招いたものだろう。もともと太りやすい体質に見受けられる。しかも成長期にあるようで、体つきを見てもやせにくい体質のようだ。これは肥満のプロの私が見るのだから間違いはない。その点で安藤選手には大きなハンディがある。しかしそこを何とかするのが競技者だ、という批判は正しい。
練習姿勢も問題がありそうだ。しかしネットで多く見かける「練習時間が三分の一」という批判はあたらない。少しでもまじめにものごとのトレーニングの取り組んだ人ならばわかるだろう。というよりも受験勉強を経験した人ならばわかりそうなものだが、勉強量は時間で計るべきではない。何時間勉強したか、でしか計れないようでは、自分は合格できても(もともと頭がいいからそういう劣悪な勉強方法でも合格できるのだ)、人を合格させることは難しい。受験指導とは違う、という声が出そうだが、安藤選手の指導者は、「時間が短い」と言っているやじ馬よりもレベルは下なのだろうか。安藤選手は自分一人で練習しているのではない。コーチが付いて練習しているのである。
練習姿勢に関して新聞に出ていたのは、彼女が全体を通じて踊る練習をあまりしなかったことが言われている。個々の練習はするのだが、全体を通してはなかなかやらない。その結果、体力配分が上手くできなかったのだ、と。これは練習方法の選択にミスがあったのだろう。個々の技術を挙げるのに一生懸命で、特に4回転ジャンプを成功させることを中心に取り組んだ結果のように思われるが、フィギュアというのは、結局全体で一つの作品なのであって、一連の流れをミス無く演じたものが、高いポイントを獲得できる、という競技なのである。4回転は確かに高得点だ。しかしリスクを冒して高得点をねらいに行くよりも、リスクを低減して点数を稼ぎに行った方が勝利しやすいことを荒川選手が証明して見せた。安藤選手サイドは大きな判断ミスを犯したことになる。ただこれは結果論にしかならないだろう。現に荒川バッシングも行なわれているのである。どちらに転んでも文句を言う人は文句を言うのだ。
結局のところ、安藤選手バッシングはスケートに関心のある人々が主導したものではない。これを確認したいのである。12月25日、全日本女子フィギュアが開催されている最中に某掲示板では安藤バッシングがすでに盛り上がりを見せていたのである。これはあらかじめ仕掛けられていたものだ。ここは決定的に重要だ。安藤選手が6位に終わる前からすでに盛り上がっていたのである。何らかの意図を持って仕掛けられたネット上の匿名掲示板での安藤バッシング。あおられてネット上で盛り上がるバッシング世論。冷静な声はかき消される。それに追随する週刊誌。さらに加速するバッシング世論。まさに今、日本で行われている世論誘導の図式だ。安藤美姫論は日本のメディアの縮図ですらある。