安倍内閣敗北によせて

とりあえずこれから予想される安倍内閣の動きを示しておこう。
参議院を取られた安倍内閣が退陣せず残ることに関して、いろいろ言われている。例えば、もし安倍総理が退陣し、首班指名にいたった場合、小沢一郎民主党代表が自民党の中に手を突っ込んで、首班反主流派、たとえば谷垣禎一財務大臣加藤紘一元幹事長を担ぎ出し、自民党を割ってしまう、ということを心配したとか。だから自民党は内閣退陣という手段はとりえない、という観測もある。ただどうも安倍総理は自分から退陣するつもりはない、ということのようだ。あくまでも自分の手で改憲への道筋を付けたいのであろう。しかし改憲については少なくとも足を引っ張っていることは確かで、安倍総理はあくまでも自分の名声のために改憲をしたいだけ、と言われても仕方がない。枝野幸男議員が皮肉ったように確かに安倍総理は「究極の護憲派」なのかもしれない。
自民党からも批判が噴出する中で、退陣せずに求心力を保つために安倍総理内閣改造を早期に行ないたい、と党側に申し入れ、党幹部から、党執行部の任期である9月まで待つように言われた、とも伝えられているが、求心力にこだわる安倍政権側が人事を握って求心力を保とう、としているのは、注目に値する。その意味では安倍総理に表立って文句を言えない状況にあるのかも知れない。どう頑張っても人事に影響のなさそうな人々が安倍批判を繰り返してガス抜きを行っている、というのが実情だろう。今の自民党にはどうも安倍総理を退陣させるだけの力量はないように思える。もう一つ安倍政権が求心力を保つために使えるのが予算である。沖縄・岩国方式とも言われているが、岩国米軍基地の問題で協力しなかった岩国市の市庁舎への補助金を断ち切るというような形で、政府の言うことを聞かない地方自治体を金で締めつける、ということは可能である。逆に言えば、それを抑えるのは世論しかない。
とりあえず党内の求心力を保って、命脈を保てば、安倍政権が抱える弱点は意外と小さい。参議院を握られたのは確かに痛い。しかし参議院を握られても、衆議院では3分の2の議席を確保しているため、衆議院の再可決が可能である。参議院議長のポストを民主党が握るため、いざとなれば審議を行なわない、という荒技も可能だが、所詮予算案と条約では30日、法案でも60日の抵抗が限度で、それを超えると参議院が否決した、として扱われる。結果は衆議院での再可決。実際のところ参議院を握ったところで最終的なところは変わらない。しかも審議を行なわない、というのはかなりの荒技であり、連発すると今度は民主党への批判が高まるというもろ刃の剣である。
ただ衆議院での再可決がある、と言っても、これもあまり連発するとその法律自体の正統性が問われることになる。二院制の意義も問われる。内閣側も参議院を全く無視はできまい。結果的には慎重に審議をする、という立法府の本来の姿が少しでももどる、ということになる。そもそも行政府の意向にお墨付きを与えるしかなかった従来の立法府が誤っていたのだ。憲法では国会については「唯一の立法機関」「国権の最高機関」と位置づけている。現状では行政府の権限が肥大化して、立法府の存在意義がなくなっていた。その意味では参議院における与野党逆転は、三権分立の本来の姿を取り戻すチャンスである、とも考えられる。主権者たる国民は選挙で民意を示し、立法府の構成を決める。行政府たる内閣へは世論で民意を伝えるしかない。だから「安倍総理は続投すべきだ」「安倍総理は退陣せよ」という世論を示すことには意味がある。
次回からは安倍政権の敗北に関して見ていく。年金問題への対応・閣僚の失言への対応など、本来安倍総理の責任ではない問題がなぜ安倍政権の足を引っ張っていったのか。それは一部マスコミや反日勢力の陰謀だったのか。もしそうだとすれば、日本国民は洗脳にかかりやすいバカだ、と言っているに等しい。私は石原都知事再選の時も都民の知性を云々する以前に、そもそも反石原陣営の問題点を洗い出すべきだ、と主張してきた。今回も同じである。問題は安倍政権側にこそ求められなければならない。確かに年金問題などの不運はあった。また小泉改革により自民党の基盤が破壊された、という不運もあった。閣僚の失言も安倍氏個人の問題では確かにない。その意味では「気の毒」かもしれないし、「少しは同情の余地」もある。しかし今回の問題に関して結論をあらかじめ言えば、デリケートな政権運営に耐え得る資質を有していなかった、としか言いようがない。本来はチャンスにすべき事態すらことごとくピンチにしていったのだ。粗野に見えても小泉純一郎前総理にはそういう資質があった。衆院選参院選は振り子現象もあるだろうが、もう一つには、小泉前総理の資質もからんでくるだろう。