安倍続投の背景に関する一考察

7月29日、選挙の大勢が明らかになった時点で、赤坂プリンスホテル森喜朗元総理・中川秀直幹事長・青木幹雄参院自民党会長が集まっていた。冒頭、選挙の総責任者である中川幹事長は「私の不徳の致すところです。申しわけございません」と頭を下げ「責任をとって幹事長を辞めます」と辞意を表明した。参院自民党、中でも津島派が壊滅した青木会長も「私も同じだよ」と同調した。ここで3人の関心は安倍晋三総理の進退の1点に絞られた。3人は自民党の獲得議席が30台なら退陣は避けられないとの結論で一致していた。「安倍君はまだ若い。今、辞めれば次のチャンスが生まれるかもしれない」という青木会長の意見に安倍後はだれなのか、という問題が浮上する。3人が異口同音に口にしたのは、「福田首相」による次期衆院選までの選挙管理内閣構想だった。「彼なら落ち着いているし、安定感がある」。ただし、福田元官房長官は71歳。福田元官房長官を評価する森元総理らも、あくまで「暫定的な緊急避難措置」と考えていた。麻生太郎外相だけは、党内に「ポスト安倍」の人材が枯渇するなか、温存しておかなければならない――。それが3人の共通意見だった。
森元総理と青木会長は、中川幹事長に安倍総理の意思を聞いてくるように求め、その場から首相公邸にアポイントメントの電話を入れた中川会長は、電話を切った後「総理は麻生さんと会っているようです」と、森元総理と青木会長に告げた。
安倍総理は「このままでは辞められない。続投を支えてほしい」と麻生外相に懇願、麻生は即座に全面協力を約束した。麻生外相が反旗を翻さなければ、党内で政局はあり得ない。この時点で安倍続投が決まった。同時に麻生外相の幹事長就任と、次期総裁選での麻生支持も決まった。
午後6時前、麻生外相と入れ替わるように首相公邸に入った中川幹事長に、安倍総理は「結果がいかなるケースであろうと、解散のない参院選で、政権選択が行われることはあるべきではない」と続投への強い意思を伝えた。「ポスト安倍」は安倍という強烈な意思表示だった。麻生外相の強い後押しを得た安倍総理は強気であった。
安倍総理の説得に失敗した中川幹事長は森に「我々が考えていたのとは全然違う雰囲気です。総理は続けるつもりです」と伝えた。安倍も森に電話し「辞めません。続けるつもりです」と通告。森も「わかった」と安倍続投を呑むしかなかった。森元総理としても自分がどれだけ影響力を維持できるかどうかということを考慮すると、死に体となる安倍はまだしも操りやすいという計算や、青木会長からすれば、仲間の惨敗で動きようがないし、続投支持で少しでも安倍に恩を売っておけば、内閣改造参院から大臣を送り込めるということで納得するしかなかったのだ。この瞬間、「福田選挙管理内閣」構想は幻に終わった。
ゲンダイネット(「ニフティニュース(@niftyニュース)」)と毎日新聞(「http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070804-00000013-mai-pol」)を組み合わせれば、こうなる。この両者の違いはゲンダイネットが森・青木の安倍続投の意思を比較的能動的なものと見なし、一方毎日新聞が安倍続投を安倍総理自身の強固な意思と麻生外相と安倍総理の連携に引きずられた、と見ている点である。福田選挙管理内閣構想が全くなかったとは言いがたいから、おそらく毎日新聞の記事がより事実を正確に描写しているのであろう。森元総理にとって死に体となった内閣の方が操りやすい、と見たのは、一般論で、この場合の事情を正確に反映しているようには思えない。両者とも強調しているのは、麻生太郎外相が今回のヘゲモニーを握っている、という点である。ポスト安倍の最有力候補である麻生外相が動かなければ、自民党はもはや動けない。森元総理や青木会長の影響力はかなり低下しているのではないか、という気がする。今後安倍内閣を操るのは麻生幹事長だろう、という気がする。
ゲンダイネットは「新5人組談合」という言い方をしているが、実際は森元総理と麻生太郎外相のポスト安倍をめぐるヘゲモニー争いがある、と見た方がいいだろう。
森永卓郎氏は安倍改造内閣について次のように述べる(「http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/o/92/index4.html」)。

新しい内閣の顔ぶれとして考えられるのは2つ。超改革型内閣かゾンビ内閣かである。
超改革型内閣とは、民主党に考え方の近い若手を登用した内閣である。例えば、河野太郎亀井善太郎らを積極的に登用する。これこそが、安倍政権の支持率を落とさない唯一の方法だとわたしは考える。
一方で、急激に支持率を落としそうな方法が、「実力派、ベテラン登用」という名のゾンビ内閣である。例えば、古賀誠幹事長、福田康雄副総理といった面々に加えて、森喜朗元首相が奥でどっかと座っている図を思い浮かべるといい。
これでは民主党も攻撃しやすいし、スキャンダルも次々に出るだろう。国民のイメージも悪く、これが実現するとなると、自民党は破滅への道を進むことは間違いない。

森元総理と麻生外相の主導権争いはこの内閣改造に現れるだろう。