ミッシングリンク2

昨日書いたミッシングリンクの補遺。
昨日のエントリは、町村派が麻生氏排斥に乗り出した、というシナリオだった。しかし当然別の見方がある。天木直人氏の説(「amakiblog.com - このウェブサイトは販売用です! - 政治活動 リソースおよび情報」)だ。
自民党は終わっていた」という項目で、「福田康夫の登場で自民党九死に一生を得た」「急遽福田でまとまったということは、まだ自民党に政権を守ろうとする執念が残っていたという事だ」と指摘し、「何のための自民党総裁選か」という項目では「それは、「密室政治で決めた」と国民に反発されないためだ。おまけに自民党総裁選を行う事によって、国民の関心を自民党に集める効果があるからだ」「小泉と違って福田は麻生を敵視はしない。それどころか麻生が大負けして恥をかかないように総裁選の票さえも調整されるのではないか。数字の上では思ったよりも麻生に票を流すのではないか。福田内閣でも手厚く遇せられるに違いない」と指摘する。今回の総裁選で否定されたものは麻生氏ではなかったとすれば、何が否定されたのだろうか。天木氏は「小泉改革は否定され、小泉の政治生命は終った」という項目を立てる。これは小泉純一郎氏に対する天木氏の感情がかなり尾を引いていると思われる。「福田も麻生も、『小泉改革は引き継ぐが、改革の陰の部分に光を当てる』などと馬鹿な事を言っている。そうではないのだ。小泉改革は否定されたのだ。失言壁のある麻生は、既に口を滑らせているがもっとはっきり言うべきだ。『小泉の為に自民党は潰された、小泉はひでえ野郎だった』と」「安倍辞任は、福田を誕生させ、福田の誕生は小泉の再登場を絶った。安倍は結果的に小泉を道連れに政治生命を失ったということだ。飯島辞任は当然なのだ」
この天木氏の議論では麻生氏と福田氏はすでに話が付いていることになっている。福田氏と麻生氏は連携して小泉改革をつぶしにかかったのである。麻生氏はより強く小泉改革を否定する。福田氏は「改革を進める」と口先ではいいながら、実際の政策では「脱改革」に舵を切る。このシナリオでは麻生氏は「討ち取られた」どころか、次は麻生総理である。この当否は福田内閣が発足してからの麻生氏の処遇を見れば大体分かるであろう。麻生氏が重要ポストで遇されれば、天木氏の説が妥当だった、ということになるし、麻生氏が干されれば昨日紹介したネットIB(「http://www.data-max.co.jp/2007/09/post_1560.html」)がより妥当性が高いことになる。
そもそも安倍氏がなぜ突如辞任したのか。
精神的に追いつめられていた説(「http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20070918-05-0202.html」)。
和田秀樹氏(精神科医)。

「国会の所信表明翌日に突然辞任するタイミングや、記者会見でしどろもどろの受け答えをしていた様子を見ると、肉体的にはもちろん、精神面も相当に悪かったのではないでしょうか。専門用語を使えば、精神運動制止と言えるでしょう」
「このような状態だと、所信表明の原稿を棒読みすることは可能でも、代表質問で起こり得る質問攻めに耐えることは難しかったでしょう。主治医や家族からも、職務の続行にストップがかかったのではないでしょうか。そのことは、記者会見を約20分間で一方的に打ち切ったことからもうかがえます」

香山リカ氏(精神科医)。

「相次ぐピンチが来ても、長期的視野に立ってチャンスに変えることができる人もいます。けれども、安倍さんは誠実かつ真面目で、裏表のない性格なのでしょう。目の前に起こる課題を乗り切ることで懸命だったのに違いありません」
「もし、少しでも自分の名誉を守ろうとするならば、きれいな引き際も考えるはずです。でも、今回の辞め方を見る限り、そういう形跡は見当たりません。まさに『もうダメだ』という感じで放り投げてしまったのだと思います」

矢幡洋氏(矢幡心理教育研究所所長)。

「彼は『自己愛性パーソナリティー』傾向の強い人なのでしょう。このタイプは、自己評価が実力よりも高く、実現が難しいことを夢想し、理想論を言葉にしてしまいがちです」
「そして、こうした人は自己批判の意識が低い。辞任の理由について、自分の責任に言及するよりも、民主党の小沢代表との直接会談を断られたことを挙げていたことからも見て取れます」

外交の行き詰まり説(「http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20070918-04-0202.html」)。
小池政行氏(元外交官、日本赤十字看護大学教授)。

シドニーでの日米首脳会談で、ブッシュ大統領は安倍首相に『ミスター・プライムミニスター(総理さん)』とだけ呼びかけ、名前すら覚えていないかのような対応でした。少なくとも小泉前首相に比べて、安倍首相の存在感が米国にとって薄いのは明らか。インド洋での海自の補給活動についても、ブッシュ大統領は『引き続き支援を期待する』とは言ったものの、もっと強い表現で後押ししてくれると見込んでいた首相にとっては、期待はずれだったでしょう」
「米国が本当に安倍首相のことを考えているなら、あの時期に野党党首と公開の席で会談しないでしょう。首相は父の安倍晋太郎外相時代に外相秘書官を務め、対米人脈には自信があったはず。しかし、米国は死に体の首相をもっとシビアに見ていることをシドニーで思い知らされ、もう少し頑張ろうと奮い立たせていた気持ちが完全に萎えてしまった可能性も考えられます」

渡部恒雄氏(米戦略国際問題研究所CSIS)客員研究員)。

「米国が日本のテロ特措法による補給活動を継続してほしいのはもちろんです。しかし、それができなければ絶対ダメというほど米国にとって大問題ではない。ましてや日本の首相が辞めるほどの話とは思わず、米国も衝撃を受けたでしょう。米国は現在、雇用統計が悪く、経済が正念場。むしろ今回の首相退陣で米側が恐れているのは、日本の政権が1990年代前半のように不安定化し、日本経済も再び不安定化してしまうことです」「ブッシュ政権は対北関係の改善を進められるだけ進めようという考え方に変わっています。北朝鮮が本気で核廃棄すれば、おそらく拉致問題の解決にかかわらず、テロ支援国家の解除などに踏み切ると思います」

李英和氏(関西大学教授)。

北朝鮮問題で融和路線に転じている米国から、北が核廃棄に応じさえすれば、拉致問題が解決しなくてもテロ支援国指定解除や米朝国交正常化などを進めると、はっきり告げられたのかもしれない。そうなれば、拉致問題で政権にのぼりつめた安倍首相の面目丸つぶれという事態になる。それを聞いて一気に辞任へと気持ちが動いたということも、ありえないことではないでしょう」

そしてスキャンダル説。これは立花隆氏が詳しく述べている(「http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/070914_scandal/index.html」)。いわゆる『週刊現代』による脱税疑惑である。立花氏の記事の主要項目を挙げておこう。「発売前の週刊現代記事を巡る前哨戦」「まだ存在しない記事に対する安倍事務所の反撃」「報道機関に一斉に流された警告文」「週刊現代が安倍事務所に突きつけた質問状」「安倍首相側の過剰反応」「財務省相続税担当官も認める」「親子二代にわたる安倍家の政治資金問題」「安倍首相を追い込んだものの正体」。そして最後のところで次のようにまとめる。

3億円なのだ。これが事実ならば、こんな問題を、まっとうな説明なしにやりすごすことはできないし、安倍首相はもはや二度と政治資金問題について、あるいは税金問題について、もっともらしいことを何一つ語ることができないことになるだろう。
あのときもし、突然の辞任宣言なしに、臨時国会が開かれ、与野党逆転参院でこの問題の議論が始まっていたり、この週刊現代の記事の通りのことが明るみに出てきたならば、安倍首相がどうあがいても、野党からの国政調査権攻勢を防ぎきれず、国会が止まったり、総理大臣の問責決議案が通ったりして、見るも無残な政治的死亡をとげていただろう。

この問題はすでに公訴時効(7年)が過ぎているので、法的に責任を問われることはない。本当にあったのかなかったのかももはや分からないだろう。取りあえず可能性のひとつとして挙げておく。
実際にはこの内のひとつに絞られるものではなく、この内のいくつかの条件が複合的に重なったものなのであろう。