小林よしのり氏と鳥越俊太郎氏の対談より

小林よしのり氏と鳥越俊太郎氏の対談(「http://www.ohmynews.co.jp/news/20070410/2852」)の中で「昭和ブーム」についての言及があった。『昭和の鉄道模型をつくる』を作ったり、そこに映画『ALWAYS 続・三丁目の夕日』のフィギュアを配置したりして「昭和ブーム」にどっぷり浸かっている私にとっては学ぶところが多い。

鳥越(俊太郎) そうするとね、安倍さんが「美しい国」っていう言葉を出したでしょ。「美しい国」っていうのとね、小泉さんがやった構造改革っていうのはね、どうも僕には成り立たないと思うんですよね。その点について僕は、小林さんとおそらくかなり認識は一緒なんですよ。つまり、新自由主義というのは日本の国の伝統とかね、旧来の美しいものを壊していったんだと、僕は思ってるわけです。
小林(よしのり) 安倍晋三は、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』がいいっていうでしょ。『ALWAYS』のときは、教育基本法は現行の教育基本法ですからね。ただ、共同体がしっかりしてるから、あんな麗しい人間関係があるんですから。あれをどんどん壊してきたわけで、それをもっと加速したわけですから、改革路線というのは。だから、改革路線を続けて、あんな世の中、あんな人間関係が再生できるわけがない。だから、もうあの「美しい国」っていうのは間違っている。パトリなき「美しい国」ですから。パトリなき「美しい国」っていうのは成立しない。
鳥越 パトリオットパトリオティズムっていうのは……。
小林 郷土ですね。
鳥越 郷土愛という……。
小林 「郷土愛」っていうものをなくして、「美しい国」っていうのは本来ありえない。
鳥越 安倍さんの場合、“国家愛国”主義みないなものがいきなりきて、それを支える郷土愛みたいなものがないのが気になるんですよね。
小林 そうですね。だから、下部構造が全部砂粒の個人になって、上から教育基本法っていってみたりというふうになると、これはもう本当に純粋なナショナリズムになるから。ファシズム的ですよね。

「下部構造が全部砂粒の個人」というのは、小林氏が一貫して主張してきたこと。『ゴーマニズム宣言』でもしばしば出てきたように思う。
もう一つ、これは西部邁氏と小林氏の対談での発言と共通するものも。

鳥越 何でそういう話をしたかっていうと、小林さんの中では一定の考え方の変遷がね……。要するに『赤旗』を見て、ベトナム戦争を懐疑的な目で見ていた。いろんな変遷があって、今の『ゴーマニズム宣言』がそういうところにきているわけですよね。しかし、そういう変遷なしに、今の若い人たちはいきなりポッときているわけですよ。僕は、ちょっと違うだろう、という気持ちがするわけね。
小林 まあね、うん。
鳥越 さっきおっしゃったみたいに、小林さんは自分の中に、父親のね、平等な精神というものがどっかにあると……。
小林 ありますね。
鳥越 そういうものをね、果たして今の若い人たちが持っているのかっていうとね、今のように格差がどんどん開いている中でね、勝ち組とか負け組とかいうふうになっているときに、どうなんだろうなと。
小林 なるほどねえ。これね、今の若い人って言っても、わかんないですよ。なぜかというと、わしの『ゴー宣』はもう10年以上になるでしょ。初期のころからずっと読みつづけてる人って30代なんですよ。
鳥越 そうか。若者とはいえないね。
小林 そうなの。だから初期の『ゴー宣』の時は、もっといわゆる“リベラル”な感じなんですよ。それで、『新ゴー宣』からですよね、右の方に寄っちゃったのは。
鳥越 右の方にね(笑)。
小林 だから、『新ゴー宣』から入ってきた人間は、その前は知らないかもしれない。20代もどうやらいるらしいし、どうも高校生くらいもいることはいるみたいなんですよね。握手求めてくる子には、高校生もいますしね。ということは、高校生は最近読み始めたってことになりますからね。
鳥越 小林さんとしては、その前もトータルに知ってほしいよね。
小林 そりゃ、そうですね。最初から読んでもらうのが一番いいですね。そういう要素の中から来たっていうのを全部わかっていってもらった方がいい。だけど、そうもいかないですね。『(新ゴーマニズム宣言戦争論』一発で入ってきたやつの方が多いかもしれません。部数的にものすごく売れちゃってますからね。

西部氏が言っていたのは、自分らがもともと左翼思想を学んだ後、左翼思想の限界に思い至り、転向したのに対し、今の若い保守派はいきなり保守思想から入り、左翼思想を知らない、ということだったように思う。これは私も耳が痛い。私は保守思想に触れたことがない純粋培養の左翼だから。今おっさんの左翼がダメダメなのは、保守思想から学ぼうとしない姿勢にあると思っていて、だから私は思想的に「これは違うぞ」と思っても、できる限り学べるところを学ぼうと思い出したのがごく最近と言う、ダメダメ人間なのだが、まあ右派も左派から学ばないと、今の左翼みたいにダメダメになるかもしらんな、と。鳥越氏も小林氏も「今の若い人」を念頭に置いているが、両氏よりも世代が下の私には自分自身への警鐘として受け止めたい。
追記
思い出したので一つ。小林氏の「パトリなき「美しい国」っていうのは成立しない」という指摘に関して、藤原正彦氏が『国家の品格』でナショナリズムパトリオティズムに関して論及していた。藤原氏によると「自国の国益ばかり追及する主義」であるナショナリズムは「一般国民にとって不必要であり、危険でもある」という。藤原氏の言う「ナショナリズム」と小林氏の言う「パトリなき『美しい国』」というのは同じようなものなのだろうと考えられる。