イヌイット

朝日新聞夕刊文化面。国立民族学博物館教授の岸上伸啓氏のコメント。氏は『カナダ・イヌイットの食文化と社会変化』(世界思想社)で第18回カナダ首相出版賞に輝いた由。
イヌイットの生活に関するイメージについては、雪の家に暮らし、アザラシの毛皮を着ている、というイメージが強いが、今や日本や韓国製の電化製品に囲まれ、インターネットやメールを活用している、という。これについてはスチュアート・ヘンリ氏や多原香里氏もかつて宝島社から出ていた『アイヌ』に書いていた。アイヌという先入観で現在のアイヌを見ることの危険性を、である。
イヌイットの生活環境が変わろうと、変わらないのは彼らの食物分配。獲ってきたアザラシの肉などを惜しげもなく他の人に分け与える、という。
岸上氏のコメント。

イヌイットの多くは、狩猟や漁撈に携わったり、食べ物をともにしたりしながら生きることを人生の最大の喜びとしています。それは厳しい自然の中で生きてきた彼らの知恵でしょう。獲物はとれる時もとれない時もありますから、助け合わざるを得なかったのです

岸上氏はカナダ政府による先住民支援も見逃せない、と指摘。

貨幣経済などが浸透しても、国家との政治的な交渉を成功させれば、先住民族社会の存続は可能であることをカナダの例は示しています

「82年に制定されたカナダ憲法ではイヌイットやインディアンらが先住民であることが明記されている」ようで、岸上氏は次のように強調する。

先住民族の存在や権利を承認し、その実現を目ざしてきた点では先進性に富んだ国家と言えます