朝日新聞オピニオン「若い世代が見た争点」

7月22日付けの宮台真司氏・雨宮処凛氏・中島岳志氏の鼎談。
見出しとして掲げられている三氏の発言。
雨宮氏「貧困抜け出せず政治に怒り」
雨宮氏は小泉改革を支持した貧困層の若者について「彼らにとっっては自分で自分の首を絞めたと実感した4年間」といい「4年前は『ワーキングプア』という言葉は一部の人しか知らなかったし、ネットカフェ難民も『発見』されていませんでした。製造業の覇権からホームレスになりやすいことも知られていなかった」としたうえで「この4年間に想像もしないぐらいに殺伐とした社会になった。それをどう考えるかが、今回の総選挙のいちばん大きなテーマ」とする。
中島氏「社会の『つながり』築き直せ」
中島氏は雨宮氏の提言を受けて「日本社会が人々をつないだり包み込んだりする『包摂力』を取り戻すことが重要」としたうえで、雨宮氏の運動について「社会が包摂力をつけるという点で、大きな意味を持つものだと思います。単なるパイの要求だけではなく、「つながり」の回復が存在するからです」とする。それに対する雨宮氏の答えは「せめて最低限、ホームレスにならないとか餓死しないとか、それぐらいの要求しかしていない」という。雨宮氏は最後のほうで「40代のフリーターも増えていて、将来設計どころか、先のことがまったく考えられない。『自殺か餓死かホームレスか刑務所か』という四択だという自嘲の声さえ聞きます。そういう感覚を理解してもらえるかなという大きな疑問がありますね」というが、何となく身につまされるのはなぜ?まあ文系の博士課程修了ワーキングプアは自業自得としか言いようがないのだが。
宮台氏「『任せる』やめて『引き受ける』」
宮台氏は「任せる政治から引き受ける政治」ということで「官僚や政治家任せの政治を、市民が自分で決める政治に変えられるか」という問いを発する。「小さな国家」しかあり得ないなかで「大きな社会を作れるかどうかが鍵」という。そこで「『国が何とかしろ』という議論が『格差論壇』に目立つこと」に疑問を呈する。「『大きな国家』は財政破綻と道徳的な退廃を免れない」とし、「国家がやってきたことを社会に差し戻そう」という議論とその重点である「市民が自分で政治をすることと、経済的なつまずき程度じゃ路頭に迷わない社会をつくること」としたうえで「日本の今の格差論壇は国家に要求するだけで、相互扶助的な社会をつくるという主著が乏しい」とする。それに対し雨宮氏は「助け合うとか社会がフォローし合うとかは、ものすごく重要だと思うんです」としたうえで「この数年『家族なんだから助け合え』という形で、介護も何もすべて家族に丸投げされてきました」「自分たちができる範囲で助け合いを実践しつつ、国にも要求していくというスタンスは必要」と反論する。それを受けて中島氏が「再配分には国家を通じたものと社会を通じたものがあります」と整理し、「国家を通じた再配分では、政府に対する信頼があれば国民もそれに応じる」「社会の底がもし抜けているというなら、どういうふうに連帯感とか国民間の信頼を作っていくかが問題になります」とまとめる。
中島氏「少数意見すくえぬ二大政党制」
雨宮氏が「05年の秋以降、社会の下層にいればいるほど生活がどんどん厳しくなることが身にしみてわかって、小泉政権が終わって安倍政権になった途端に、これは政治の問題だったと多くの人が気付いた。そういう流れの中で、ネット右翼っぽい人も左傾化したりした。私と同世代や20代の意識が変わった4年間でした。共産党の人気も高くなりました」という現状認識を示したことに対し中島氏は東京都議選共産党議席を大幅に減らしたことに関する中島氏の見解。中島氏は「小選挙区制では、自民党民主党も多数を取るために政策がかぶってしまい、かえって大事な問題が争点にならない」と指摘する。小選挙区制や二大政党制については「少数意見が切り捨てられすぎる」とし、宮台氏も「僕も同意見です。先進国をみると、二大政党制は左派的な『再配分政党』と右派的な『市場主義政党』に分かれることが前提」なのに「日本ではずっと自民党が再配分政党だった」とし、再配分を求める場合も自民党を頼ってきた現状を「小選挙区制は制度としての合理性を論理的に欠いています」とする。
その議論の中で宮台氏は「官僚に誰が勝馬なのかを思い知らせる大イベントが必要」として小泉郵政選挙を見習って「小選挙区制を利用して自民党を壊滅的に敗北させるのがいい」とする。「挑発的に言えば『良いファシズム』がある」という宮台氏の発言に中島氏は「独裁者が理性に基づいて『よき社会』をリードするのは不可能」としてファシズムや小泉郵政選挙を見習うことに反対意見を主張する。
雨宮氏「投票も行けないロスジェネ」
雨宮氏はロスジェネ世代の政治的な関心は高い、とする。しかし「年収がある程度以下だったり、雇用形態が不安定だったりすると、選挙権が事実上剥奪されている。普通選挙の前の時代に逆戻りしている感じがしますね」という。
宮台氏「市民の力に無頓着な自・民」
宮台氏は中島氏の「30代の市長や議員に過剰な期待を持たず、後々のための投資と思ってほしい」という提言に対し「『いいこと』をしたい若い人が増えているのに、政党は無頓着」とする。
続きはまたあとで。
追記
ようやく暇が出来た。
宮台氏が「今回の総選挙で有権者に何が求められると考えますか」と問うたのに対し、中島氏は「政権交替に期待しすぎないことです」とする。中島氏は「戦後の歴代内閣の発足時の支持率の上位四つのうち三つが、今世紀に入ってからの小泉、安倍、福田。世論が意見ではなく気分になっていることの反映です。有権者も票を投じた責任をしっかり考えることが重要」と指摘する。確かに小泉・安倍・福田・麻生と四つの内閣で一貫していることはあまりない。安倍内閣参院選挙で惨敗した原因を総括しないまま、なし崩し的に「勝てる総裁」を選んできた結果、現在の自民党の混迷がある、というのはよく聞く話ではあるが、中島氏は「多くの人はそんな議論よりも、自民党がごたごたして転げ落ちているさまをみる『快楽』に傾斜している」と警告する。雨宮氏はそれを受けて「建設的な怒りであればいいと思うんですけど、ガス抜きで終わりだと」と同調している。
最後に中島氏は「私個人は政党は比例代表で選び、小選挙区では人物で選びます。地頭が良くて、他者への想像力を持ち、自分の理念を説得的に語れる人」と挙げている。個人的には「そういう人がいない場合にはどうすればいいんでしょうか」と思ってしまう。我が小選挙区自民党の派閥の領袖と共産党の大物と民主党の新顔しかいないが、まあ小選挙区は完全に自民対非自民で非自民票を民主党共産党が喰いあうので完全に自民党の圧勝だろう。「必勝区」としている割には共産党が勝つのをみたことはない。比例と重複立候補しているから、落選はないが、「必勝区」というのは完全に掛け声倒れ。