想定の範囲内?

今回の事故については私も時々使う路線であり、かなりびっくりした。が、同時にいつか起こることは予見も十分できた問題である。
マスコミでは多くの報道がなされているが、鉄ヲタから見ればほとんど取るに足りない話だ。基本的に無意味に煽るだけで、ポイントを得ることは少ない。専門家からもつっこみがいっぱい入っているはずだ。ATSの問題然り、運転士の11ヶ月というもの然りだ。不安を煽り、真実から目を背ける、これが大マスコミの基本姿勢であることを改めて感じる。
原因については今のところ調査中ということで、何とも言えないが、運転士の資質、個人的事情に帰するべきではあるまい。むしろ問題はタイトな時間と、厳しいペナルティにあったのである。つまり特殊な個人によって引き起こされた、レアな事件ではない。いつ、どこで起こっても不思議ではない事件だったのである。
オーバーランによって伊丹駅を1分30秒遅れたことがポイントだ。JRはよく遅れる。私は毎週大分県に行っているが、のぞみはいつも2分遅れる。おかげで小倉駅はてんわやんわだ。私もあたふたと乗り換えする。昨年の春から夏にかけても毎週行っていたので、慣れているとはいえ、結構大変だ。旅慣れない人にはプレッシャーだろう。なぜ遅れるのか。余裕時分が少ないからである。
問題の列車は宝塚発の東西線直通快速である。問題が三つある。
一つ目は最近中山寺停車が加わったことである。にもかかわらず、所要時間はほとんど変わっていない。余裕時分を削っているのではないか、という疑問を捨てきれない。基本的にJRは余裕時分をけずり、タイトな時間にすることで、停車駅を増やして利便性を増やす、という手法を採用してきた。その結果JR西日本京阪神エリアでは2分程度の遅れは日常化している。福知山線もその例外ではない。
二つ目に東西線直通ということで、この列車の遅れは様々なところに影響を及ぼすと言うことだ。東西線のみならず、接続する東海道本線の列車にも影響がおよぶ。だから余計にペナルティが強かったとも考えられる。
三つ目に定時運行への要求だ。昔国鉄時代は確かに定時運行をしていた。しかしそれは余裕時分が多かったからだ。少し遅れても途中駅の停車時間を切り詰めれば何とかなる。たとえば新幹線を例に挙げると、昔は210kmと言っても、実際は200kmでダイヤを構成していた。だから遅れたときに210km出せば遅れは取り戻せたのである。国鉄末期になって220kmに統一された。余裕時分が切り詰められたのである。それで定時運行を昔並に求められてはたまったものではあるまい。在来線の普通列車は105kmが最高だったのである。110kmまでは問題なかったであろう。それで遅れを取り戻すことが出来た。停車時間も少し長めであった。それが今は普通列車でも120kmを求められる。停車時分も少ない。まして快速だ。遅れをとりもどすことは不可能だ。しかしペナルティがあるので、どうしても遅れをとりもどさなければならない。特に他線区に影響を及ぼす東西線直通ともなればなおさらだ。
この事故はおこるべくして起こった。それは事実である。しかし問題点を追究するときに車体の構造とか軽量車体だった、とかそういう瑣末な、非本質的な問題を追いかけて何になるのだ。おおきな問題はJRの労務管理体質にこそある。しかしそこを衝くことは、現在多くの企業が進めている「効率的な経営」に反することなので、マスコミも書けないのではないか、と勘ぐりたくなる。特に運転士の個人的資質を問題にする報道は、問題点を隠蔽し、問題を矮小化するものと言わざるを得ない。
もう一度いう。「効率的な経営」を目指すしわよせが、引き起こした事故である。そのようなリスクを背負わされた乗客はたまったものではない。