出来の悪いレポート

近頃必要があって蒙古襲来関係のサイトを見ていた。呆れた。こういうレベルの言論がまかり通っている現状にネットの暗部を見た思いだ。あるサイトにこんなことが書いてあった。

たちの悪いのはインターネットで安易に程度の低い情報を流す心ない人たちである。インターネットを使って情報発信されているみなさんに失礼なのは承知の上だが、インターネットで本当に価値のある熱帯魚やディスカスの飼育情報を流している人がいるのか?これはもっとも熱帯魚の世界だけに限ったことではないのだが・・・まあ、ゼロとは言わない。だけどほとんどいない。人様にものを言うのに、お見せするのにろくに勉強もしないで、飼っている魚の自慢や流行の飼育論もどきだけを並べるのは恥ずかしくないのだろうか?そんな下らないものを発信するのは止めて欲しい。サーチエンジンの的確なヒットを阻害し、人様に余計な時間を使わせるだけであり、人様に(特に初心者の方たちに)誤ったセオリーインプリンティングするだけで百害こそあれ一理無い。そんなページがあまりにも多いのは非常に問題である。確かに発言するのは自由、言うだけはタダ、だけど、本当に見るに値するページは多分、2,3しかない。猫も杓子もインターネットってなんか間違っている。*1

かなり賛成である。歴史学に関しては。人様にものを言うのにろくに勉強もしないで、自分の差別的な世界観をとうとうと述べるだけ、というのは恥ずかしくないのだろうか?
蒙古襲来関係ではこういう感じだ。高麗が日本遠征に積極的だった証拠を大々的にかき立て、高麗の反モンゴル運動がモンゴルの足を引っ張ったという議論は「左翼のトンデモ理論」という。
こういうことを書いているのは失礼ながら専門的な素養のある人には見えない。それどころか教養科目の歴史学のレポートとしても落第だろう。落第級のレポートを麗々しくサイトで公表するのは、まさに「サーチエンジンの的確なヒットを阻害し、人様に余計な時間を使わせるだけであり、人様に(特に初心者の方たちに)誤ったセオリーインプリンティングするだけで百害こそあれ一理無い」というのは、あたっている。
なぜか。まず、高麗政府の中にも日本遠征に熱心な勢力は存在する。当たり前だ。そんな当たり前のことをわざわざ新発見であるかのように載せるのは端的に言って何も知らないからだ。「鎌倉幕府を開いたのは実は、源頼朝なんですよ」ということをわざわざサイトで新発見として述べる人はかなりやばい人だろう。同じことをやっているのだ。
一方「トンデモ主張」といわれる見解は一九五六年に旗田巍によっていいはじめられ、石井正敏による「高麗牒状不審条々」の検討、さらに村井章介による三別抄の乱の詳細な検討を経て作られた見解である。「トンデモ」というのであれば、「高麗牒状不審条々」の実在を否定しなければならない。それが否定できないのであれば人を「トンデモ」扱いする落第点のレポートだといえるだろう。
もう一つの問題点は、そもそもなぜ高麗反政府勢力による対日戦争の妨害を強調するのか、と言う点については過去一〇〇年余りも積み上げられてきた研究史との関わりがあるのだ。過去の研究史を検討した上での発言なのか、理解に苦しむ。
一つ書き忘れていた。匿名での情報発信は基本的に信用できない。えっ?お前はって。一番信用できません。
追記
こういうことをこんな場で書いているのは、上記「落第レポート」級の文章が排外思想を煽り立てるために書かれている、という現実があるからである。一応当該分野に携わるものとして、自分の仕事場以外のこういう場でも言及しておいた方がいいかもしれないし、っていうか、してもいいかな、というところですかね。別にいい加減なことをネット上で発言すること自体が即悪だ、と言っているわけではありません。ただ、こういう間違った説を「国民にも広げねばならない」という使命感に燃えて広げるのは、当該分野に携わるものとしては止めて欲しいな、と思う次第です。自分の専門領域において誤った知識を、それも特定の意図を持って広げている場に出くわした場合、やはり言及するのも一つの使命かな、と。直接そこのサイトに喧嘩を売れ、という意見もあるかもしれませんが、私はそれは無意味と考えます。そういうサイトは特定の意図を持っています。そしてその意図そのものを否定することは正しくありません。こちらがこういうことを向こうのサイトに書き込んだとしても無視されるだけでしょう。私であっても無視します。私はこれを素材として、私のブログにアクセスして下さる人には提供したい、と考えています。

*1:この引用先を明示しないのは、これが話題と全く関係のない熱帯魚関係のサイトなので、こういう政治的な発言の場に引きずり出すのはサイト管理者にとっても甚だ迷惑なことと思われたので、こういう措置をとりました。