ミスターの虚実

日曜日深夜のスポーツ番組を見ていた。スポーツ番組はミスター一色。私は阪神ファンなので、ミスターが阪神ファンであるという事実以外には関心はない。ただその番組には槙原寛己氏が出演するので注目していたのだ。槙原氏は元巨人軍のエースだったので、当然ミスターこと長嶋茂雄氏の問題には発言するだろうな、とは思っていた。「ミスターにこれ以上頼るな」というまっとうな意見を述べていたが、私が槙原氏に注目するのは、彼が決して公には報道されないであろう長嶋氏の一側面を物語るからである。
年末の珍プレー番組でゲスト出演していた槙原寛己投手(当時)に女子アナが質問する。「長嶋さんがベンチにいたら楽しいでしょう?」槙原「とんでもないですよ」とむきになって否定していた。あと何を槙原氏が話していたか、明確な記憶がないのでこれ以上書くのは控えるが、とにかく「楽しい」というのを一所懸命否定していたのを覚えている。そりゃそうだ。もしベンチにいるだけで、ずっと楽しい監督が居たら、その監督は端的に言ってバカだ。大木ひびき流に言えば「そんなやつおれへん」。そもそもそういう馬鹿なことを質問する女子アナがスポーツバラエティのメイン司会をやっているところにこの国のスポーツをめぐる悲しむべき現状がある。しかしそれでも売れるのだから仕方がない。現に私だって見ているわけだからな、うん。
ただ、私は「明るい」言い換えればノー天気なミスター、というステロタイプな人間像とは異なるミスター像をそこに発見して「おや」と思ったわけだ。ミスターを祭り上げている凡百の評論家とは異なる生の長嶋茂雄像が槙原寛己投手の目を通して浮かび上がってきたのだ。
槙原氏が長嶋氏に関して冷徹な分析眼を失わなかったのは、投手槙原寛己が、監督長嶋茂雄に受けた屈辱的な扱いがその根底にあるだろう。
完全試合を成し遂げ、日本シリーズMVPにも輝いた投手をどう見ても不向きな抑えに回した揚げ句、調子を崩せば敗戦処理かよ。あまりにも非情な采配だと思う。しかしこれが長嶋采配なのだ。明るく、みんなから好かれる監督ではただのバカだ。そうではない一面を見せられたような気がした。別に長嶋采配がいい、というわけではないが。いや、大好きだが。あれだけ巨大戦力を持って、大した実績が残せないのだから、あれはあれで大した才能だ。
ちなみにとんねるずのバラエティでとんねるずの率いるチームと槙原投手(当時)の率いるチームが対戦し、最後は槙原チームがとんねるずチームのクローザー江夏豊(!)氏を打ち込んで劇的な勝利を収めた時の槙原投手の発言がいまだに心に残っている。「めっちゃうれしいよ、レギュラーシーズンで優勝するよりよっぽどうれしいよ」まあリップサービスだろうが、心底嬉しそうだった。ミスターがいないからか?
広沢克巳発言も興味深いが、これは週刊誌の記事なので、ここでは取り上げない。