拉致問題と安倍晋三氏の苦衷

こういう意見http://blog.kingdom.or.jp/magnumosk?day=20060110を見かけた。

北朝鮮と国交を結びたい人って誰でしょう?小泉ですか?違いますよね。私の書いたことを見てもらったら、決して小泉は国交正常化のために動いているんじゃないということがわかってもらえると思います。彼は、国交正常化交渉という武器を使って、拉致事件を白日の下にさらしただけで、国交正常化なんて考えてないですよ。考えているのなら、安部晋三なんて後継者に選びませんよ。小泉が国交回復を図ろうとしていると報道しているのは、マスコミの勝手であり、そのマスコミこそが、拉致事件を隠してきた張本人の一人なんですよ。純粋に戦争反対って叫んでいる人を利用しているのは、こういった輩であり、先導してアジっているのもほぼ同罪です。北朝鮮との国交回復について、日本にはなんら利点なんか無いです。利点があるのは、左翼勢力と左翼勢力による教育を受けて官僚になった連中の点数稼ぎだけです。

鉄道の専門家で、尼崎事件の時にマスコミの無知を批判する急先鋒だった人のブログだ。さすが鉄道の専門家だけあって、その意見は傾聴すべきものとして拝読してきた。しかし今回のエントリにはさすがに疑問を感じた。その疑問を一言で言うと「城内実」という人に尽きる。これでは何のことだかわからない人も多いであろう。
城内実衆議院議員*1安倍晋三官房長官の右腕とも呼ばれた議員だが、前回の総選挙で落選した。小泉総理から刺客を差し向けられたのである。刺客の名前は片山さつき氏。要するに安倍氏はもはや小泉総理に右腕をもがれて、それでも小泉総理についていかなくてはならない状態に置かれていることは明白だ。
西尾幹二氏は安倍晋三氏の官房長官就任に懸念を表明していた。拉致問題に熱心な安倍氏を小泉総理のスピーカーである官房長官に任命し、安倍氏の基盤である拉致被害者関係者からの支持を切り崩そうとしているのではないか、と。もちろん根拠もないし、アンチ小泉の主導者である西尾氏の議論と小泉支持者の議論のどちらが正しいか、私には判定する能力はない。しかし小泉総理が拉致被害者家族会との面会に応じなかったことは、私の中では小泉総理が拉致問題の解決に及び腰との印象を与えたことは否めない。さらに小泉総理がなぜ経済制裁を発動しないのか、疑問である。もし上記の小泉総理支持者の言う通りであれば、小泉総理は経済制裁発動にもう少し熱心であってもいいはずだ。それどころか、安倍氏からも制裁への発言がとんと聞かれなくなった。それどころか、安倍氏はあろうことか、女系天皇容認について党議拘束をかける意向を明らかにしたのだ。私の記憶が正しければ、安倍氏女系天皇容認には慎重だったはずだ。安倍氏が転向したのではない。安倍氏官房長官としての職務上、小泉内閣の方針のスポークスマンを勤めているだけなのだ。しかし安倍氏にスポークスマンを勤めさせるのは、安倍氏にとってマイナスでしかない。北朝鮮への経済制裁問題でも、女系天皇問題でも、安倍氏を支持してきた人々の評価は揺らぎつつあるのだ。本当に小泉総理が安倍氏のことを考えるのであれば、武部官房長官、安倍幹事長ではなかったか、と思う。だから私は小泉総理が安倍官房長官を本当に後継者に据えたいと思っているのか、極めて疑問に思っている。サプライズがあり、安倍氏ははしごを外されるのではないか、とさえ思っている。城内実氏を切った段階で、安倍氏は小泉総理の軍門に降らざるを得なかったのだ。でなければ安倍氏自身も切られていたであろう。官房長官就任、ポスト小泉への名乗りには、安倍氏自身の苦衷があるのである。
ちなみに経済制裁だが、私も小泉総理都同じく、現段階での発動は無意味であると考える。なぜなら日本が発動しても、穴抜けだからだ。北朝鮮に対して実効性のある経済制裁でなければ意味はない。そのためには中・韓・露の協力は不可欠だ。ガッシュ氏は5月1日のエントリで

北朝鮮をもしも完全に経済封鎖することができればどうなるか。今はまだ軍上層部にはある程度の食料が行き渡っているが、やがてそれすら行き渡らなくなる。食えなきゃ死ぬのだから、誰かが必ずクーデターを起こさざるを得ない。そうして樹立した新政府に対して、日本は様々な援助と引き換えに拉致被害者に関する調査団を送り込み、核の撤廃を行わせる。現在の国際状況からは最も現実的な方法だと思うのだが…。

と言っていて、一つだけ疑問なのが、「もしも完全に経済封鎖することができれば」という前提の実現性だ。本当に経済封鎖することが出来れば、北朝鮮拉致問題の解決に本腰を入れるだろう事は明白だからだ。しかしその実現性には疑問符がつく。それは中・韓・露の存在だ。中・韓の反発を買う靖国参拝はその点からはアキレス腱になりかねないのだが、小泉総理自身は対北朝鮮経済制裁発動に消極的なので、その点は非常に理屈が通っている。安倍氏には大きなジレンマとなっているであろう。さらに言えば、安倍氏は昔から靖国神社に参拝してきた人であるが。小泉総理はもともと靖国参拝には積極的でなかった人である。小泉総理自身が靖国を争点にしているのは明白だ。安倍氏からすれば「何を今更」と思っているんではないか、と勝手に想像してしまう。ここでも安倍氏と小泉総理の温度差がはっきりしている。
だから「北朝鮮と国交を結びたい人って誰でしょう?小泉ですか。違いますよね。私の書いたことを見てもらったら、決して小泉は国交正常化のために動いているんじゃないということがわかってもらえると思います。」という上記の意見には非常に違和感を感じるし、その人が書いたことをいくら見直しても、私には彼の発言がわからない。
ちなみに「私の書いたこと」を下に引用しておく。

さらに昭和60年代に、絶大な権力を握っていた自民党金丸信元副総理、社会党田辺誠副委員長の訪朝(平成2年9月)で、日朝国交樹立のための、政府間国交交渉で合意するなど、与党・野党も北朝鮮に対して「腫れ物にさわる」という姿勢であった。このような政治状況であったため、拉致=北朝鮮という関係調査も、政治的トップダウンで中止命令を受けたと回顧する警察捜査官もいる。ようは、金丸を巻き込む事によって、北朝鮮問題をうやむやにしたのは、社会党社民党なのだ。このような名前と状況、見ていて感じませんか?日本の戦争責任を追及し続け、憲法改正論議自体を否定したがる政治家たち、マスコミ・・・一致しませんか?何が言いたいか判ってもらえますか?それぞれの意味を、皆さんで判断してください。

いや、これを読んで、日本の左翼も自民党もアホだった*2、ということは良く分かるが、「決して小泉は国交正常化のために動いているんじゃないということ」はわからない。「さらに」の前は週刊新潮の引用だし。
ちなみに反小泉的立場から同じことを言っているのが天木直人氏の「http://amaki.cc/」の1月6日のエントリ。やはり引用しておく。上手くリンクできないので。

警察はとうの昔にわかっていて拉致救済の行動をとりたかったに違いない。それを止めたのが政治と外交だ。自民党もそして野党までも、それぞれの利害が絡んで、北朝鮮に強い態度をとろうとしなかったのだ。政治家にまるで頭の上がらない外務官僚は、政治家に取り入って、外交的配慮と称して拉致救済に動かなかった。
その行き着く先が、外務官僚田中均小泉首相の突然の訪朝とピョンヤン宣言という裏取引だ。手柄をたてたい外務官僚が、歴史に名を残したい浅ましい小泉首相をおだて上げ、無理に署名したのがピョンヤン宣言だ。
あの時我々は「北朝鮮が拉致を認めた」、「小泉首相の大手柄だ」とさんざん聞かされた。マスコミもそれを繰り返した。しかし、誰がどういう表現で拉致を認めたのか我々は正確に知らされていない。金正日小泉首相に首脳会談で言ったというのか。だとするとどういう表現でそれを認めたのか、その時小泉首相はどう応えたのか。これらの記録を正確に知っている国民はいるというのか。それを正確に報道したマスコミはあったか。外務省の説明をマスコミがそのまま報道し、国民はそれを信じて、そうかと思い込まされているだけではないのか。今こそ国民はその説明責任を小泉首相や外務官僚に迫るべきだ。

どちらの意見が正しいかは読者にゆだねます。
ちなみに私個人は安倍晋三氏は好みではない。安倍氏と小泉氏を選べ、と言われたら小泉氏の方を選ぶかな、という程度だ。だから安倍氏擁護のつもりは全くない。

*1:氏のブログの1月4日付のエントリは中々興味深い。一読をお勧めするHugeDomains.com - Shop for over 300,000 Premium Domains

*2:ちなみに左翼はかつてスターリンを支持し、フルシチョフを批判し、毛沢東を支持し、金日成を支持した前科を持つ。かなりやってくれてますな。左翼学会に所属しているので、先輩方のこういう悪事は左翼内部でも語り継がれていて、耳に良く入るのだ(笑)。