安藤美姫論3

安藤美姫選手について論ずれば、必ず政治的言説*1となってしまう。安藤美姫という存在に付着させられた政治的言説はあまりにも大きい。
安藤選手バッシングがどのような経路で発動されたか、前回のエントリーで某匿名掲示板→週刊誌→一般化という流れで広まったことを検証した。今回はその持つ意味を検討したい。
まずは今や消え去ったかに見える安藤バッシングの証拠ともなる記事を。

(某掲示板)の速報スレでの安藤叩きは異様な盛り上がりを見せています

これは昨年12月段階である。安藤バッシングが出てきたのが、浅田真央選手が年齢規定によってオリンピック出場が出来ないことが決まった時であることは、きっかけ自体はありふれた言説であることがわかる。12月の全日本フィギュアで浅田選手がトップに立ち、安藤選手が6位に沈んだことは、明らかに安藤選手にとって逆風であった。
確かに私みたいなにわかファンには6位に沈んだ安藤選手がなぜ選ばれるのか、という疑問を持ってしまうのだ。しかしそれは私がフィギュアに関しては完全ににわかファンであって、選考過程を知らないことから、そういう疑問を持ってしまうのだ。そこで今回選考過程を調べて見た。あまりにも初歩的なことを調べているらしいことがわかって、今さらながら恥ずかしかったのだが、どうやらオリンピックの選考は過去二年間のポイントで選ばれているのだ。そんなことも知らなかった私自身を恥じ入るばかりなのだが、ポイントが1位 浅田真央 2451点、2位 安藤美姫 2215点、3位 村主章枝 2150点、4位 荒川静香 2060点ということで、安藤選手は2番目。そして浅田真央選手は出場資格がないために出場資格がある選手の中では一位通過なのだ*2。世の中には浅田選手に出場して欲しい、という意見も多い*3のだが、その場合、落ちるのは荒川静香選手である。ということは、浅田ファンがバッシングする対象は荒川選手であって、安藤選手ではないはずだ。しかし安藤選手にターゲットが据えられた。これには二つの理由が考えられる。一つは私のようなにわかの無知なファンが安藤選手のバッシングに走った。しかし私のような無知なファンの声がマスコミを動かすことは考えられない。もし動かしたとしたら、マスコミはただのバカである。もちろんマスコミは私ほどバカではない。残念ながら(笑)。
とすれば考えられるのは、安藤選手バッシングは全く別の理由で仕掛けられた、と考えざるを得ないのだ。始まった場所がある特定の政治的主張を孕んだ掲示板であったこと、そして下に引用した記述を見れば、安藤バッシングの政治的メッセージは明白である。

海外メディアに、スポンサーの広告塔として来ているだけで、オリンピックの舞台を練習場と勘違いしていると酷評された選手もいましたが、トヨタ、ロッテ(日本企業ではないのにスポンサーになれるのはおかしい)、松下などの企業スポンサーの都合で選手選びをするのはやめてもらいたいものです。TVのコマーシャルを見るたびに、上であげた3つの企業に対する不快感・嫌悪感は日々増大する一方でした。

真ん中の「ロッテ」*4に注目して欲しい。(日本企業ではないのに)という一節がわざわざ挿入されているのである。ここに安藤バッシングを主導した人々の政治的メッセージが現れているのである。
本人の全く予期せざる文脈でバッシングに巻き込まれた安藤選手こそ悲劇である。たとえば里谷多英選手は自分がバッシングされる理由と対処法はわかる。しかし安藤選手の場合、自分がなぜバッシングの対象になるか、わからなかったであろう。理由が分からなければ対処もしようがない。安藤選手はストレスで明らかに人相が変わっていた。何度も書くが、オリンピックに日本を背負って闘いに行く選手に対するいわれ無きバッシングを、「愛国」を称する人々が行なう。近年流行している「愛国」的言説のいかがわしさを遺憾なく発揮した事例が安藤バッシングであったのだ。だから私は安藤美姫ファンではないにも関わらず、安藤美姫論を書き続けるのだ。

*1:もちろんそういうこととは無関係に安藤選手を個人的に嫌いな人もいるだろう。また安藤選手を好きな人もいるだろう。私は安藤バッシングが仕掛けられた背景を考えているのだ。個々の好き嫌いまで論じるつもりはない。

*2:この選考方法は以前から確定していたのであるから、元スケーターの意見をわざわざ持ってこなくても、私みたいな無知な人間でも無い限り予想はつくはず。この選考方法をわざわざ書かずに「裏がある」と取られる(実際に裏はあるのだろうが)ように書き立てるマスコミは私のような「バカ」ではなく、それ相応の意図があるのだろう。まさか選考方法を知らずに論ずる「プロ」はいないはずだ。

*3:日本スケート連盟国際連盟(ICU)のチンクアンタ会長に浅田出場を打診したのだが、正式に断られたらしい。もちろん城田憲子監督と浅田・恩田美栄両選手の指導者の山田満知子コーチの対立関係が影響したとの報道もあるが、それならばやはりバッシングの対象は城田監督の教え子の村主・荒川両選手になるのが普通だろう。

*4:ロッテのCMに荒川・安藤・村主選手が出演していることに対する不信感があったようだが、2005年度のシンボルアスリートとして、陸上の室伏広治末續慎吾、柔道の井上康生谷亮子レスリングの浜口京子、卓球の福原愛、ジャンプの葛西紀明、スピードスケートの岡崎朋美、そしてフィギュアスケート荒川静香村主章枝安藤美姫の各選手が上っていたのだ。過去のポイントから判断して最有力選手を割り振ったのだろう。2005年度のシンボルアスリートとして登録されたアスリート以外は出られない、ということも注意を払う必要がある。逆にシンボルアスリートだから優先的に選出される、という事情もあるだろう。しかしそれならばむしろポイントがぎりぎりだった荒川選手がバッシング対象になりやすいと思うのだが。