神風の風景 第一章 敷島の大和心

菅野は第二神風特別攻撃隊の忠勇隊の直掩を務めていた。第二神風は艦爆(いわゆる急降下爆撃機)中心の編成であった。とりわけ忠勇隊は新鋭の彗星艦爆で編成されていた。
対空砲火がすさまじく、また雲も多かったため突入には手間取り、突入する特攻隊と一緒に降下し、引き起こすと編隊を組んで帰還しなければならない。直掩は撃墜されては使命が果たせないのである。しかしそれに手がいっぱいで特攻機を見る暇はない。敵戦闘機との戦いもある。しかしそのような困難な中、菅野はしっかり三機の突入を確認した。戦艦、巡洋艦駆逐艦各一隻を撃破したことは確認した。
菅野は帰ってくると杉田らに言う。
「特攻に行って、しかもあの激しい対空砲火の中でやり直しをスルのは大した度胸だ」
帰還後菅野は司令部に報告を行なった。
「忠勇隊は敵戦艦、巡洋艦駆逐艦に突入、これを撃破しました」
「して敵艦を撃沈したのか」
「猛烈な対空砲火と敵戦闘機の妨害で沈むところまでは見ておりません」
それに対し飛行長が何気ない不満を漏らした。
「最後まで戦果を見届けずに帰るとは・・・」
その瞬間銃声が響いた。周りは驚いたが、報告は続けられた。帰ろうとすると菅野が杉田らに声をかけた。
「おい、ちょっと肩を貸してくれ。足が痛くてな」
見ると菅野のつま先から血が出ている。飛行長の発言に激高した菅野が拳銃で自分の足を撃ち抜いたのだ。
この話をする吉田に梨山が聞く。
「その話を誰から聞いた」
「杉田上飛曹です」
その瞬間梨山の表情が少し動いたのを吉田は気付かなかった。
続く