連載物

敷島の大和心解説

前回も書いた通り、吉田中佐というのは故豊田穣氏の創作したキャラクターである。吉田中佐が必要とされた理由をここでは考察したい。 吉田中佐が果たした役割は菅野直大尉が特攻に強い思い入れを持っている、ということを表すことである。しかし実際に菅野大…

神風の風景第一章解説

今回の「神風の風景」に出てくる吉田中佐は架空の人物である。もともとは豊田穣氏の小説「紫電改戦闘機隊」(『オール読み物』一九七二年五月号収載、原題「最後の撃墜王」)に出てくる人物である。役柄は「特攻なんて犬死」という発言をして菅野に殴られ、…

神風の風景 敷島の大和心

杉田上飛曹と宮沢二飛曹の処置に追われる吉田の元に菅野が入ってきた。 「軍医長、飛行許可を下さい」 「ん?わしが禁止してもどうせ飛ぶじゃろ?」 菅野は苦笑した。 「はい、しかし一応傷を見ていただきたいんです」 吉田は菅野の手術跡を診察した。 「ま…

神風の風景 第一章 敷島の大和心

二日後、鹿屋基地に種子島から連絡が入った。 「敵艦載機の編隊、佐多岬より鹿屋に向かう」 すぐに発進命令が出され、Z旗がスルスルと上がる。吉田は医務室からZ旗を見ていた。しかしその時には山の向こうにグラマンF6FとコルセアF4Uが来ていた。離…

神風の風景 第一章 敷島の大和心

菅野は第二神風特別攻撃隊の忠勇隊の直掩を務めていた。第二神風は艦爆(いわゆる急降下爆撃機)中心の編成であった。とりわけ忠勇隊は新鋭の彗星艦爆で編成されていた。 対空砲火がすさまじく、また雲も多かったため突入には手間取り、突入する特攻隊と一緒…

神風の風景 第一章 敷島の大和心

「それで貴様は何がしたいのか。それをどれだけの人間に言ってきたのか」 梨山中佐は詰め寄る。 「特攻隊の人間に言うつもりはない。彼らがそれを知ったからといって救われるものでもありませんしな。しかし特攻に行かない我らは直視する必要がある。我々は…

神風の風景 第一章 敷島の大和心

scene9 「貴様!そのようなでたらめを菅野大尉に吹き込んだのか!この非国民!」 梨山中佐は吉田軍医中佐に詰め寄った。 「非国民とは人聞きが悪い。関中佐が4度目で突入に成功したことは事実で、うそ詐りはない。そしてわしは別に関中佐が命惜しさに帰って…

神風の風景 第一章 敷島の大和心

scene8 関大尉の突入六日後、菅野が内地の出張から飼えって五日後、菅野はマニラ近郊のニコルス飛行場にいた。突然山の向こうから白煙を上げた飛行機が飛んできた。 「空襲だ!見張り!何をしてるんだ!」 大騒ぎである。ニコルスには第一航空艦隊司令部があ…

神風の風景 第一章 敷島の大和心

scene7 一九四四年十月一九日、菅野が群馬県の中島飛行機で零戦の整備を待っている頃、第一航空艦隊司令長官に内定していた大西瀧治郎中将は二〇一航空隊司令山本栄大佐、飛行長の中島正少佐をマニラ来るように命じた。しかし大西中将自身がマバラカットにむ…

神風の風景 第一章 敷島の大和心

scene6 半年前、菅野はフィリピンのマバラカット基地で空母銃撃の作戦に従事していた。当時連合艦隊が保有していた艦上爆撃機である九九式艦爆は旧式化して低速のため、新鋭の二式艦爆通称彗星が投入されていた、はずだった。しかし一向に彗星を使う日は来ず…

特攻の風景 第一章 敷島の大和心

scene5 343航空隊の司令部が集まっていた。第五航空艦隊司令部から343航空隊も特攻隊を出せ、という要請があったのである。その時菅野が吉田に方を支えられて入ってきた。 「ここは幹部の会合だ。君には用はない」 第五航空艦隊から派遣されてきた梨山…

神風の風景 第一章 敷島の大和心

scene4 「久しぶりだな、菅野大尉」 吉田軍医中佐がにやりと笑った。 「その節は大分手荒くかわいがってもらったが」 菅野は「まずいヤツに会ったな」と思った。 「君は名隊長だそうだな。大酒のみだそうだから麻酔は効かないかも知れないが」 吉田はまたに…

神風の風景 第一章 敷島の大和心

scene3 鹿屋に移動した343航空隊の菅野直大尉は鹿屋の士官食堂で懐かしい顔に出会った。フィリピン時代に部下だった土肥三郎中尉である。大阪師範学校(現大阪教育大学)出身の予備士官で、その後特攻隊を「志願」し、一人乗りのロケット特攻機桜花の搭乗…

神風の風景 第一章 敷島の大和心

scene2 343航空隊が松山から鹿屋に移動することになり、司令の源田実大佐は鹿屋に出張していた。留守を預かっていたのは副長の中島正中佐。中島中佐のもとに佐世保鎮守府から電文が届いた。 「菅野直大尉を上官暴行の件にて取り調べたし。至急変更」 中島…

神風の風景 第一章 敷島の大和心

scene1 一九四五年一月初め。鹿屋の料亭鹿翠楼。一式陸上攻撃機を主体とする七五二航空隊の士官達が宴会をしていた。昨年十月二十五日神風特別攻撃隊の関行男大尉以下五人がフィリピン沖の米空母部隊に突入して以来、フィリピン周辺で特攻が行われていた。 …