神風の風景 第一章 敷島の大和心

「それで貴様は何がしたいのか。それをどれだけの人間に言ってきたのか」
梨山中佐は詰め寄る。
「特攻隊の人間に言うつもりはない。彼らがそれを知ったからといって救われるものでもありませんしな。しかし特攻に行かない我らは直視する必要がある。我々は特攻に彼らをいかせている。そしてうその物語を作り出している。これは許せるものではない。鹿屋にいると特攻隊が毎日のように出撃していく。しかも主力は桜花じゃ。桜花は海軍が開発した特高兵器じゃ。どう考えても自発的なものではない。そして好きなように物語を作り出し、自分を正当化する。わしにはどうすることも出来ないが、しかし知っておく必要がある。そうではありませんかな」
そういうと吉田は梨山を見据えた。
「それでもあなたは特攻を自発的な行為とうそをつき続けるつもりですか。責任を逃れ、責任を特攻隊の英霊たちに押し付けるつもりですか。五航艦の参謀であるあなたにはそれを考えてもらいたい」
というとさらに語気を強める。
「我が帝国がまだ勝つ可能性があるとお思いか。こんなことを言えば憲兵に引っ張られるかも知れないが、日本は負ける。鹿屋にいる人々はみなそう思っておる。これは首脳部もそう思っているのではないでしょうか。そもそも捷一号作戦が戦争をうまく終わらせるための最後の作戦だったはず。それも失敗に終わり、戦争を終わらせる契機を失い、暴走している。その象徴が特攻ではないですか。結局上の失敗の尻拭いを若者が行なわされている。これが特攻ではないですか。その責任から我々は逃れるわけにはいきませぬ」
というとさらに続けた。
「中佐は関中佐の遺した言葉をどうお思いか。『最愛の妻のために』という言葉を。あれをまさか情けない、とかお思いではありますまいな」
「いや、それは思わぬ。それでも皇国を守ることが最愛の妻を守ることになるのだ」
「それは違う!関中佐は特攻が最愛の妻を守ることにも、国を守ることにもならないことを知っていたはずだ。でなければ「日本ももうおしまいだよ」という言葉が出るはずはない。関中佐が喜んで死んでいったとなぜあなたは言えるのか」
「周囲の指揮官達も言っているではないか」
「それこそが欺瞞なのだ!関中佐を特攻にやらせた人々が自分の責任を全て関中佐にかぶせているのが、本質ではないのか。さらに言えば菅野大尉も被害者ですぞ」
「どういうことだ?」
「菅野大尉に殴られた後、わしは菅野大尉の周辺を調べた。そして菅野大尉と話したいと思ったが、松山にいる菅野大尉を呼び出すには軍法会議しかない、と思っていたが、それを阻止したのが中島正中佐じゃ。そして中島中佐と菅野大尉のややこしい関係に気付いた、というわけじゃ」
続く