扇動されやすい人

現在鎌倉時代の講義*1をやっている。一昨年にもやったが、今年もやっている。なぜだかテスト一発勝負はダメ、という大学で、そのくせ数百人を一つの教室に詰め込むから、講師としてはどうやってテスト以外の評価をするべきなのか、よくわからない。そこで適当な時期に小レポートを書かせている。
一昨年宝治合戦のところでレポートを書かせた。宝治合戦とは、鎌倉幕府の有力御家人であった三浦泰村北条時頼に滅ぼされ、鎌倉幕府の政治上の大きな画期となった合戦である。一般には得宗専制への道と評価される事件だが、永井晋氏の『吾妻鏡を読み直す』という著書の該当箇所を読ませて、レポートを書かせた。永井晋氏は、従来の時頼黒幕説ではなく、時頼は三浦氏から安達氏への外戚の交代をスムーズに行いたいと思い、三浦泰村にも事を荒立てるつもりはなかったのだが、時頼派の強硬派安達景盛と三浦氏の強硬派三浦光村に引きずられる形で合戦に至った、という見通しを提示した。私自身永井晋氏の議論を興味深いと思ったし、従いたいと思ったので、その著作を紹介し、レポートの題材に指定したのだが、提出されたレポートを見て少しびっくりした。
少なからざる人が「私たちはだまされて、虚偽の歴史像を注入されていたのだ」と書いている。「憤りを覚える」とまで書いていた学生複数いた。どうも彼らの好きな自画像とは「だまされていたけど、真実の歴史に触れて目が覚めた」というものらしい。私の講義が学生を扇動してしまったわけだ。これは困る。
そもそも今まで論理的な思考の訓練をされていない学生に、いきなり学説を読ませるのは厳しかった、と反省した。しかし一応「NHKブックス」なのだが。まさか専門誌の論文を読ませるほど、無茶なことはしていない。今は学説を整理している文章を読ませるようにしている。

*1:般教