野口悠紀雄氏の議論

『ダイヤモンド・マネー』誌最新刊の記事より。
経済学者の野口悠紀雄氏のインタビュー記事。日本株が下落した本当の理由、という見出しが付いている。日本の景気が低迷している理由を野口氏は日本のマクロ経済政策の歪みにある、と指摘し、日本復活のための10の視点を示している。
1「円安は輸出産業の収益を拡大させる一方で日本人を貧しくさせました」
野口氏は「05年以降の日本の企業の収益拡大と景気回復は、改革ではなく円安に達成されたもの」とする。「改革」によって日本の経済が復興し、日本経済が失速すると「改革が足りない」と喧伝するマスコミや躍らされている一部のブロガーとは異なる視点である。円安によって輸出品の値段が下がり、輸出産業の国際競争力は高まり、金融緩和で利子負担を軽減された。野口氏の議論に付け加えるならば、消費税による税収は法人税の軽減に使われ、社会保障には回されない。その結果年金をはじめとする社会保障費は圧縮され、国民に将来に対する不安を惹起させ、消費意欲を削減させ、日本経済の伸びが鈍化したことも付け加えなければなるまい。
あとは項目だけを挙げておく。賛否はいろいろあるだろうし、私自身いろいろ思う所はある。
2「異常な円安が清浄なレベルに戻っていく過程で日本株は下落したのです」
野口氏は円安バブルの崩壊が日本株の下落の原因とみている。
3「食料の供給量は拡大していくと考えられ日本が自給率を上げる必要はありません」
野口氏は自給率を高めよという議論は、輸入制限や高い関税を正当化するためになされる議論であり、供給者の論理である、とする。
4「ガソリンの暫定税率の廃止は望ましくない」
野口氏は原油に関して価格上昇による需要の減少に期待すべきとする。ガソリン消費量の拡大につながる暫定税率の廃止に反対する。
5「中国やインドは日本と状況が違う。イギリスをお手本に」
中国やインドの高成長によってもたらされたのはインフレであり、そこから学ぶべきものはなく、また一億人を超える季語になると単一国家を維持していくのは困難になる、という。東アジア共同体をユーロ加盟国や米国に対抗する巨大な経済圏とするべき作ろうとするのは間違い、とする。そういえば90年代にそういう議論があったなあ、と遠い目になる。
6「少子高齢化は望ましい現象です。人口減少で日本は豊かに」
人口が少なくなれば労働生産性は高まり、国民一人当たり生産量は増加する、と野口氏はいう。年金問題では税方式に反対を主張する。所得の再分配を考えれば年金は税方式が望ましいのだが、そこはいろいろ議論があるところだろう。
7「日本では合併によって名称は変わったものの新たな顔ぶれは見られない」
日本が精彩に欠ける原因として、日本経済が90年代以降生じた世界の新しい条件に適合していない、と野口氏はいう。ビッグバン以降のイギリスでは金融機関が外資に買収されたが、日本では名称は変わったものの、外国企業による買収を拒んでいる限りイギリスのようにはなれない、という。これはかなり議論があるところだろう。
8「製造業では新興国ができない高付加価値製品に活路を見出すべき」
中国が市場経済の仲間入りをして以来、昔の大量生産型製造業では低賃金の新興諸国に太刀打ちできない、という。確かにNゲージではよくわかる話である。安かろう、では鉄コレに勝てない。マイクロエースよりも鉄コレを選んでしまう。どちらも中国製だが。やはり日本製の高価だが、高付加価値のあるものがあれば、思わず買ってしまうかな、と思ったが、リアルラインのD51は買ってないな。KATOのED73は予約入れたが。マイクロのED73はやはりいささか不満が残る。ただKATOのED73はまずミニカーブレールを通過しないだろう。できれば高品質のC56でミニカーブレールを通過できるものがあれば買ってしまうかも。とはいいながらやはりワールド工芸の高付加価値、高額商品を買うか、と言えば二の足を踏む(ワールド工芸寿都鉄道8500を買ったのは誰かな?鏡、鏡)。
9「円安は麻薬のような存在。もっと円高が進むべきだと私は考えています」
円安は輸出産業にとってはよくても、日本全体にとっては、国内で生産したものを不当に安く売り、海外から供給されたものを割高な値段で購入せざるを得ない、という点でよくない、と主張する。野口氏は1ドル70円程度、あるいは「ビッグマック指数」に基づけば1ドル79.14円が妥当、としている。全く個人的事情だが、NZドルとユーロと豪ドルがものすごく元本割れする(涙)。
10「製造業中心から脱却し1ドル=70円でも収益を確保する体制を整えていくべき」
急激なドル安・円高の進行は日米両国の景気の後退をもたらすため、政治的に選択が難しいが、世界経済は継続可能な状態にならない、ということと、今株式市場から発せられているのは、「現状の産業構造のままではこの先日本は生き延びられない」というメッセージである、と野口氏はいう。
現在の財界が製造業、特に輸出産業中心であること、輸出産業の数字さえよければ景気がいい、というまやかしが通用してきたことが問題である、と私個人的には思う。小泉・竹中体制では特にその傾向が強い。輸出産業の数字上の業績を上げるために国民生活は犠牲にされ、実体経済が弱体化して個人消費が上がらず、日本経済が力強くなれない、と言われているのは、その通りかもしれない。
いろいろと考える材料になる記事ではある。