中山成彬氏の「単一民族」発言について

私は上のエントリで中山成彬氏の「単一民族」発言を批判する意図は毛頭ない。氏の発言は「内向きの単一民族」ということで、「単一民族」をネガティブに捉えている、という点で、今までの「単一民族」発言に比べると、それほど悪質であるとは思えない。これについては例えば「単一民族幻想」とか一言入れておけば十分批判をかわせる範囲ではなかったか。言葉遣いに配慮が足りない、と言えばそうだろうし、だからこそ氏もアイヌ協会に謝罪したのだろう。だからネットで散見されるのは「単一民族は正しい」として中山氏を擁護する意見だが、そもそも中山氏の発言を都合のいい所取りしている点では、中山氏の発言を断片的に捉えて批判している人と代わりがない、ということだ。批判するために片言隻句を捉えて発言の意図をねじまげるのは一つの手段ではある。しかし、擁護するために中山氏の片言隻句を捉え、中山氏の発言の意図をねじまげるのは後ろ弾でしかない。
氏の発言で問題なのは何よりも国土交通大臣という公人の立場を踏まえずに教育論という、自分の私人としての意見を一方的に述べたことにある。また学力テスト導入の背景を暴露し、「役割は終わった」という、学力テストの信頼性を損ねかねない発言も問題だろう。また日教組の組織率と学力の因果関係も相関関係すらはっきりしない事柄を決めつけた点にも問題はあると思う。日教組をぶっつぶす云々は、国土交通大臣ではなく一衆議院議員としてやれば、賛否は別にして、それはそれで政治活動の一環であるとは思う。
まあ中山氏は結果としては麻生太郎内閣総理大臣の足を引っ張ったことは間違いない。津島派の幹部からは「不満を持った町村派自爆テロ」という声も挙がっているようだし、「今回の自爆は、組閣で冷遇された町村派に蔓延する不平不満を反映しているようにも思える。」(「ハチャメチャ中山国交相の自爆 - kojitakenの日記」)という見方もできる。まあ、中山氏は、サヨク思想に洗脳されてしまっている私にとっては嫌いな政治家に属するので、この問題についてこれ以上あれこれと言及するつもりはない
追記
あれこれ言及するつもりはない、と言った舌の根も乾かぬうちに何だが、一応備忘録。dj19さんからのご教示(「http://mainichi.jp/select/seiji/news/20080925ddm003010092000c.html」)。

派閥無視のしわ寄せは、最大派閥の町村派に象徴的に表れた。
24日午後、衆院議員会館の自室にいた中山成彬同派事務総長の携帯電話が鳴った。「おたく(町村派)が推薦した坂本剛二さん、宮路和明さんの入閣は難しい」。首相自らの「戦力外」通告だった。代わりに塩谷立官房副長官が「一本釣り」され初入閣した。
中山氏には当初、行革担当相を提示。重要閣僚を期待した中山氏は、首相周辺に固辞を伝達。国土交通相に替わって受け入れたが、同派幹部は「88人の派閥から入閣がたった2人か。あれだけ総裁選で支援したのに」と怒りをむき出しにした。

まあ本当に「自爆テロ」をしたとは思わないけど。結果としてそうなった、というだけで。麻生内閣にとっては壮烈な後ろ弾だが、中山氏を間違って擁護するのも中山氏のみならず麻生内閣にとっても効果的な後ろ弾となっている。
追記
備忘録として(「空気・関心・争点を入れ替える - 経済政策からイデオロギーへ : 世に倦む日日」)。
これは中々興味深い視点。中山氏がそこまで意図的かどうかは分からないが、ネット言論が刺戟されたことは事実。
特にこの現状分析は、なるほど、と思った。

空気は一瞬で入れ替わる。後期高齢者医療や年金問題汚染米問題は関心の背後に退き、イデオロギー問題が前景に配置され、そうなれば、左翼攻撃のライフル射撃麻生首相の得意種目であり、防御が苦手で攻撃が得意な麻生首相の本領発揮の選挙戦となる。麻生首相に反論する主役は共産党社民党で、イデオロギー対立の論戦模様が際立ち、民主党は一歩引いて存在感が薄くなる。民主党の中には西岡武夫がいる。2年前に教育基本法改正に辣腕を振るった右翼文教族で、日本会議の重鎮メンバー。中山成彬とは水魚の交わりだろう。民主党には元日教組の興石東や教育基本法改正に反対した左派の岡崎トミ子もいる。これらが一つの党に結集しているのが不思議だが、日教組論議民主党に持ち込まれると、集団的自衛権憲法改正と同じで、党内は硬直して左右分裂の恐怖が走り、議員も幹部も一歩も動けなくなる状態になる。民主党にとって最も危険で回避しなければならないのは、左右のイデオロギー対立が顕著になる政策論争が選挙の争点になることで、そうなったら選挙で自民党と戦う前に党内が二つに分裂するのである。

ただネットの言論にどれだけ影響力があるかは未知数だが。昨年ネットでそれなりに盛り上がった九条ネットに入れて思いっきり滑ったからなぁ。あそこまでダダ滑りとは思わなかった。
ただ少なくともネット言論は中山氏の「日教組をぶっこわす」で争点がセットされた気がする。争点はそこになるだろう。ネット上の争点が現実の争点になるかどうかはあくまでも未知数だが。
追記
私は中山氏の発言は最初から計算ずくで行われたのではない、と思っている。あれは「失言」だったのだろう。特に「単一民族」発言は単に「配慮がたらない」だけの話で、成田ごね得発言も同様なのだろう。日教組批判にしても初めから考えられたものではなさそうだ。ただ前者の二つと日教組批判とは意味合いが異なる。中山氏がかねてから日教組批判をしているのは周知の事実に属するだろう。
ただ閣僚を辞任せざるを得ない状況に追いやられるのはどう考えてもリスクが大きすぎる。麻生総理が最初から中山氏に日教組批判をさせようと思うのであれば、文部科学大臣に任命したはずだ。その上で選挙の争点に据えればいい。麻生内閣の戦略としてそこまではない、とみるのが妥当のように思われる。
ただネット世論が中山氏の態度を決したように思う。ネット世論では意外と中山氏擁護の声が大きかった。しかし論点は分散されており、しかも単一民族発言に関しては中山氏の発言をすら踏まえられない低レベルな擁護論が散見された。その中で特に支持の声が集まった日教組批判に論点をセットするのは当然だろう。テレビを通じて「日教組をぶっ壊す」とかつて使われたフレーズをもじったスローガンをぶち上げた。これでネット世論をめぐる選挙戦の自民党の戦略は固まったと言えるかもしれない。自民党はこの数年ネット世論を巧みにすくい上げ、使いこなすことに長けている。ノウハウは蓄積されている。民主党のネット戦略は自民党に比べて大きく立ち後れている。来る衆院選挙では民主党有利、とは言いきれない、という気がする。