「諸国郡郷庄園地頭代、且令存知、且可致沙汰条々」8 追加法290

鎌倉幕府の「撫民」を定めた一連の法令についての検討。今回は博奕の問題。御成敗式目では特に博奕の禁止を謳った条文はないが、追加法16条「可停止博戯輩事」とあり、54条「以田地所領、為双六賭事」には「博戯之科、禁制惟重」とある。
本文。

一 博奕輩事
右、任禁制之旨、一向可停止之。若有違犯之輩者、可召進其身計也。不可及妻子所従等之煩。況不可抑留田畠資財雑具矣。

読み下しと解析。

一、博奕の輩の事
A 右、禁制の旨に任せて一向にこれを停止すべし。
B もし違犯の輩あらば、その身ばかりを召し進むべきなり。
C1 妻子所従等の煩いに及ぶべからず。
C2 況んや田畠・資財・雑具を抑留すべからず。

Aでは博奕の禁止が謳われている。問題はB以降である。
Bでは「その身ばかりを召し進むべし」とある。「召し進む」はこの場合、逮捕のことだが、「その身ばかり」というのはどういうことか。
C1では「妻子所従等の煩いに及ぶべからず」とある。言い換えれば博奕禁制に背いた、ということで、犯罪者の関係者にまで累を及ぼそうとしている地頭代がいることがうかがえる。そして、罪を関係者にまで及ぼすことが問題にされているのである。C2では博奕禁止にかこつけて「百姓」の財産や家族も地頭の私有財産にしようという動きがあったことがうかがえる。
この一連の法令でしばしば見かける事態であるところの「百姓」の「下人・所従」つまり隷属民化が、ここでも問題にされている。「撫民」の内容が問題にされる所以である。