行列どころか誰も寄りつかない法律相談所

行政書士資格の取得を何となく初めてまだ半月で、民法の勉強を始めてまだ一週間経過したばかりのほやほやの法律初心者が考えた問題。
高等学校の生徒であるAは親のBが授業料を払わないことを理由に卒業証書の授与を拒否された。高校の処置は法的にみて妥当か。
私の見解
高校の処置は民法の規定に照らしても妥当ではない。従ってそもそも教育基本法民法かどちらが先か、という問題ですらない。
そう考える理由。
高等学校の生徒は基本的に未成年、つまり制限行為能力者である。従って単独では特定の法律行為をのぞき、有効な法律行為を行えない。高校に入学するという契約も、「特定の場合」を逸脱しており、仮に契約が生徒本人であったとしても、必ず法的代理人を介在させなければならない。
つまり生徒Aと保護者Bと高校Cの関係は法的には「本人A」と「法的代理人B」と「相手方C」となる。
本件の場合、AからBに代理権が与えられており、Bは当然Aの代理であるという表示つまり顕名が成立している。Bの代理行為に対してCは高校に入学させ、卒業させる代わりに授業料を納入する、という契約を結んでおり、有効な代理行為は成立している。従って本件の場合、AとCの間にはBを代理人として法的行為を行うという代理の要件は成立している。その結果原則として本人と相手方の間に直接に法律効果が属することになる。高校側の卒業証書を渡さないという行為は本人に対して法律効果の帰属を求めていることになる。
しかしこの場合、相手方Cは本人Aに対して直接債務の履行を求めることはできない、と考える。その理由を次に述べる。
まず代理人Bの代理行為が権限内であると解釈した場合。この場合は民法99条に関連した判例最判昭42・4・20)の示す「代理権限の濫用」に該当する。当該判例によれば「代理人が自己又は第三者の利益を図るため権限内の行為をしたときは、相手方が代理人の意図を知り又知ることを得べかりし場合に限り、民法九三条但書の類推適用により、本人はその行為の責任を負わない」とある。つまり相手方である学校が代理人Bつまり保護者の意図を知り、しることを得べかりし場合、つまり悪意であるか、有過失である場合は本人は代理人の行為の責任を負わないことになる。学校が代理人の意図を知り又知ることを得べかりしことは考えられない。つまり相手方に対して責任を負うべきは代理人である、と考える。
そもそも授業料を踏み倒す、という行為は「権限内の行為」であるかどうかが、問題となるだろう。代理人が権限外の行為を行なった場合は「無権代理行為」である。法定代理人が授業料を踏み倒す、という行為が代理人の権限外の行為であるならば、本人はなおさら責任を負う必要はない。責任を負うべきは無権代理行為を行った無権代理人Bつまり授業料を踏み倒した保護者である。無権代理人の責任は民法117条では「相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う」とある。しかし第二項によるとこの条項が適用されるのは相手方が「善意無過失」である場合となる。
ただ授業料を払う、払わないという決定も含めて本人Aに関する行為は基本的に法定代理人としての権限内であると私は考える。従って民法に従う限り、相手方である学校は法定代理人であるBに対して債務の履行を請求し、必要に応じては差し押さえなどの手段をとり得る、と考える。しかし卒業証書を渡さない、という形で本人の責任を問うことはできない、と考える。