取消後の第三者

ここ数日お勉強をしていてわからなかったのがこの「取消後の第三者」。分からないからと、いつまでも拘泥しているのは、本来正しくない。あくまでも行政書士という法律実務家を目指しているのであって、法学者を目指しているのではない、とテキストにも釘を刺してある。にもかかわらず研究者の性癖と言うか、分からないことをそのままにするのは気持ち悪いのだ。質問しようにも、そもそもどう質問して良いかも分からない。私は昔から質問をするのが苦手だった。質問を思いついた時には答えも出ている。
「取消後の第三者」についてざっくり書いておく。あまりにも初歩的で法学を学んだ方からすれば「イロハのイ」と笑われそうだし、下手をすれば間違えているかもしれないが、まあ初学者の備忘録ということで。
AがBに不動産甲を売った。その不動産甲をBはCに売却した。しかしその不動産甲はAがBに強迫されて売却したものであった。その場合、Cの不動産甲の取得を保護すべきか、という問題。
まずは「第三者」の要件を確認。「当事者及びその包括継承人以外の者であって(中略)登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者」(大判明治41.12.15)ということで、分かりやすく言えば、「当事者」とはAからBへの不動産甲の物権移動に関して言えばAとBになり、Bから不動産甲を取得したCはAとBからみればAの「登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する」第三者である。
まずは「取消前の第三者」。AがBに強迫されて売却した不動産甲をAが取消をする前にBがCに売却した場合、このCを「取消前の第三者」という。Cがたとえ登記をしていたとしても、Aが取消すことによって、AB間の売買契約は契約の時に遡って無効となる。従ってBは不動産甲の所有権を取得しなかったことになり、無権利者であるBから不動産甲を購入したCも、不動産甲の所有権を取得することはできない。従ってAは登記なくして取消の効果をCに対して主張することができる、ということである。つまりCは保護されない、ということになる。
次に「取消後の第三者」について。先のケースと同様、AがBに不動産甲を売却したが、それはAがBに強迫されてのことで、AはBに対する不動産甲の売却を取消したが、Bはそれを無視してCに不動産甲を売却した。この場合のCとAはどちらが優先するか、と言えば、登記の有無による。例えばCが登記していた場合、AはCに対抗できない。
何が分からなかったか、と言えば、「取消前の第三者」に対して強迫の被害者であるAを保護するのはよく分かるのだが、「取消後の第三者」の場合、強迫の被害者であるAが保護されない理由が分からなかった。判例がそうだ、と言われれば「そうですか」と引き下がる他はないのだが、何か納得できる理屈がほしかったのだ。数日間考え、調べてようやくわかった。
この一連の出来事で適用されるのは民法177条である。「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ第三者に対抗することはできない」とある。つまり登記の有無が不動産の所有を証明するのだ。しかし強迫によって不動産を売却させられたAのケースについては民法96条「詐欺又は京博による意思表示は、取り消すことができる」に従ってAの取消によってBの取得やCへの転売も無効となる。これは非常に分かりやすい。
問題はなぜ民法96条の規定が「取消後の第三者」には及ばないのか、ということである。「取消後の第三者」の場合は、AはBから強迫された、という事情はさておき、AとCはいずれもBから土地を取得した、と解釈されるのはおかしくないか、と思っていた。しかもどう考えても「取消後」に売却するのは、取消前に売却することよりも悪質である。なぜ取消後に売却された場合、Aは保護されないのか、と思っていたのだが、考えればAは取り消した後に登記をすることが可能だったはずで、取消前に売却された場合は登記ができないのに対し、「登記懈怠の責任」が問われる、ということである(「http://homepage2.nifty.com/and-/minpou/bukken1.txt」)。これで全ての疑問が氷解した。登記できたのにも関わらず登記をしておらず、その結果、Aに所有権があることについて善意であるCは「善意の第三者」として民法94条第二項の「前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない」という条文を類推適用する、ということになる。だから強迫されて土地を売却した場合は取り消してすぐに登記をしなければならない、ということだ。
ということでいいのかな?