新井貴浩選手の怒りの中身を推測する

前回のエントリで新井貴浩選手がサンケイスポーツに怒りを表した記事(「http://kanemoto-arai.com/vs_blog_a.html」)の8月5日条。かなり激しい言葉が続いている。
「報じられた側の僕や金本さんからすれば、バカにされたとしか思えない内容」
「この新聞社との信頼関係はそこで終わってしまいます」
「『新聞さえ売れればいい』という利己的な姿勢や、『読者に受けるなら、多少事実と離れた脚色があっても問題ないだろう』と言ったモラルのない報道」
「面白ければそれでいいというような軽率な発想がどれだけの人間を傷つけることになるのかということも、考えて欲しい」
「真面目に報道している記者にとっても、一部の心ない記者の存在は迷惑でしかない」
「信頼関係を裏切る一部新聞社の姿勢に怒りを覚えています」
これだけ新井選手が怒る理由を少し考えてみたい。元記事をみておく(「http://www.sanspo.com/baseball/news/090804/bsb0908040504007-n2.htm」)。

いよいよ始まる夏のロード。上昇ムードの虎とともに、近畿地方でもようやく梅雨が明けたが、カミナリが落ちていた。竜倒への思いを胸に秘め、新井と金本が名古屋入り。長き旅路の前にアニキが、悩める弟分に“説教”を食らわしていた。
 「実は…金本と一緒に、新井に注意したんです。『もっとキチッとした(打撃)状態にしろ』って。前半戦は金本は新井にひとつも怒らなかったらしい。私自身も忙しく、放っておいたんです。そしたら、案の定、ダメだったでしょ。新井は気力が足りない」
  “AK”の恩師である池口法主がマル秘エピソードを激白した。ロードを前に、西宮市内のホテルであった出来事。ここまで88試合で打率.215、10本塁打、43打点。鉄人があえて何も言わなかった理由を「そろそろ自覚が出てきてほしいと期待していたのかな」と分析。打順降格、スタメン落ちの危機ありと、さすがに我慢ができなくなったというわけだ。
 「気の出し方も新井に伝えましたし、必ずやってくれますよ。具体的なこと? それは“企業秘密”ですがね(笑)」
 悩める長距離砲にとって何よりも効く薬だった。実際、A砲は後半戦に入ってから6試合で5打点と勝負どころでの一撃が目立つようになった。だからこそ、法主は主砲にも“矛先”を向けた。
 「金本はチョット、目が疲れているかな。でも、『調子を取り戻すためにも、もっともっと新井を怒れ』と言いたいね。やっぱり怒ったら、気力が出てくるでしょう」
 1試合3発を2度マークするなど開幕直後は神様的な存在だった4番も、巨人3連戦ノーヒットで打率.262と元気がない。頭に血がのぼれば元気百倍!? 新井をさらに“イジメて”、相乗効果に期待したい考えだ。
 過去10年で負け越し7度の夏のロード。ただでさえ、今季のビジターは11勝25敗3分けと苦しんでいる。「これからは、ことある度に連絡をとって、叱ろうと思っている」。池口法主が舌なめずりする。新井&金本の完全復活なくして、チームの上昇なし。次に甲子園に帰るのは、28日の巨人戦。聖地での頼もしい姿を、虎党は待っている。(阿部祐亮)

この記事について新井選手は次のように要約している。

その中の一部を抜粋すると、こうです。
「金本が新井に我慢ができなくなって説教を食らわせた」。
「元気のない金本も、新井を怒って頭に血がのぼれば元気百倍」。
「金本は、新井をさらにイジメて相乗効果に期待したい考え」。
護摩行の先生がこれからは新井を叱っていこうと、舌なめずりしている」など…。
くだらなくて怒る気にもなれませんが、どれひとつ事実ではありません。

この記事のうち、池口恵観法主の言葉を一応真実と仮定しておく(そこの担保が崩れればそもそもサンスポは報道の態すらなしていない)と、池口法主が次のように言ったことは事実であろう。

「実は…金本と一緒に、新井に注意したんです。『もっとキチッとした(打撃)状態にしろ』って。前半戦は金本は新井にひとつも怒らなかったらしい。私自身も忙しく、放っておいたんです。そしたら、案の定、ダメだったでしょ。新井は気力が足りない」
「金本はチョット、目が疲れているかな。でも、『調子を取り戻すためにも、もっともっと新井を怒れ』と言いたいね。やっぱり怒ったら、気力が出てくるでしょう」

これをみる限りは金本知憲選手が「さすがに我慢ができなくなった」ため「説教を食らわせた」とは読めない。金本選手が新井選手の不調をネタにしたことがある。ヒーローインタビューで好調の秘訣を聞かれた金本選手が「新井君がだらしないから」と発言した。新井選手はテレビのインタビューで金本選手に食ってかかったことをあかしている。金本選手の反応は「そんなんいうなや、冗談やん」と笑っていたらしいが、おそらく金本選手の基本的な姿勢がそうなのだろう。金本選手は説教などしないのではないか。おそらく「説教」という上から目線の姿勢を嫌うタイプのように思える。「新井君がだらしない」という発言は受け取り方によっては叱咤激励である。しかし金本選手にとっては「冗談やん」であり、だからこそ新井選手も「あんなん言わないでくださいよ」と食ってかかれるのである。
思い起こせば秀太選手の「トレード志願」発言のときに、マスコミとの間に行き違いがあった。2004年オフに秀太選手が出場機会を求めてトレード志願をした時に金本選手は「獲ってくれる球団があると思うか」と発言した。各スポーツ紙は「アニキが秀太を一喝」と書いたのだが、その記事に金本選手が激怒したのである。
その時の金本選手のブログ記事を引用しておく(「メッセージ|金本知憲公式サイト | 200412」)の12月6日条。

5日の新聞に金本、激怒、秀太斬りとか、若手選手を批判してる記事がでてました。
僕はただ激励したくて、発奮してほしくてトレード志願する前にもっとプレーを磨いてほしいと思いから言ったことですがああいう変な記事になってました。
記者には何回も確認して、批判じゃないよ、激励、応援だから間違った書き方しないようにと繰り返したのにです。
今までマスコミとの会話をかたくなに拒んできた伊良部や下柳の気持ちが良くわかります。
今までも何回か言ったことと記事の内容が食い違ったことがあり腹を立てても多少は我慢してきましたが今回はあれだけ確認したのに内容が違ったから許せません。
これからは記者の取材には答えるつもりはないので僕の記事やコメントが新聞に載ることは少なくなりますが、その分、グランドで自己アピールしたいと思います。
過去にある新聞で、格闘技好きの金本、新大阪駅で某格闘家と遭遇して大興奮、ほんで会えて嬉しいみたいなコメントまで載ってました。
僕はその日は新神戸から新幹線に乗ったので出会うわけがありません。
ほんま記事を見てたまげましたわ。

この記事は新井選手のいう「(金本選手は)過去に、記者と交わした信頼関係が裏切られて、一時取材拒否をされた時期もありましたが、それも、やはり最後はファンのことを考えた上で、解除された経緯があります」という事件に相当する。
これについてはかつて考察したことがあるが、そこでは私は金本選手はちょっときつい冗談としてした発言が、「激怒」とされたことに怒ったのだろうと考えた。昨年9月の「試合後に取材を受けた金本さんは記者の質問に応えましたが、翌日の一部新聞で、金本さんが全く意図しないネガティブなコメントとして、信じられないような報じられ方をしていました」と新井選手が述べた事件も同じ図式だろう。これについての金本選手のメッセージ(「メッセージ|金本知憲公式サイト | 200809」)の9月15日条。

ところで前に「このチームは力がない、今まで勝ってきて首位にいるのがまぐれ!」って記事がありましたよね。
いろいろ波紋を呼びましたが、あれは本音ですが僕はチームを批判したわけではありませんよ。
(中略)
今日の新聞記事見てビックリしたのですが、また前と同じような発言をしたと書いてありましたね。
しかも今シーズンはすでにもう勝てない、あたかも僕が投げやりのような発言をしたかのように!
自分たちは巨人のように力は無い、現実を直視して勘違いしないでガムシャラにやろう!って言いたいだけなのに。
今まで失礼かもしれないが先程名前を挙げた選手たちが必死に頑張ってきたから、あの巨人に大差をつけて今の位置にいるんですよ!
本当にこの戦力で選手たちはよく頑張っています。
ファンの皆さん、本当に冷静に見て考えて下さい。
僕はなんとしてでもいまの、このチームメイトたちと優勝して一緒に喜びたい、ただそれだけです。
ファンの皆さん、新聞記事に惑わされないで下さい。

この記事以降金本選手はスポーツ新聞にはコメントを発していない。テレビには出てくるし、一部スポーツ紙(デイリー)には企画を載せていたりする(「はじめまして。 - アニキ番の1人語り」)ので、全てのマスコミと対立しているわけではないのだろうが、この時に各紙がどのような記事を書いていたかを検証できていないので、確言はできない。ただ金本選手の言い分をみていると、やはり批判か冗談かという分水嶺があるように思われる。見出しはほぼ次の通り。

 「阪神・巨人19回戦 阪神が連敗、月間負け越し 金本が危機感"チームに喝"」(スポーツ報知)
 「アニキ 喝!! グラ内海天敵に=連敗=「ウチが弱い」慢心許さん!虎打線に警告!!」(デイリースポーツ)
 「『ウチは弱い』阪神・金本怒った!ゲキった」(サンケイスポーツ

これも新聞は必ずしも金本選手を悪し様に書いているわけではない。にも関わらずなぜ金本選手はここまで怒るのか。それはおそらく「冗談」と「叱咤」の差なのである。金本選手は重苦しいチームの雰囲気をほぐそうとしてきつい冗談を言ったのだろう。しかしそれを「チームに喝」というように受け取られたことに激怒したのではないだろうか。
それを考えれば今回の問題も少し見えてくる。金本選手は新井選手に一言苦言を呈したかもしれない。しかしそれは記事にあるような「さすがに我慢ができなくなった」金本選手が「“説教”を食らわしていた」というものではなく、「もっとキチッとした状態にしろ」とアドバイスをした程度なのではないだろうか。「頭に血がのぼれば元気百倍!? 新井をさらに“イジメて”、相乗効果に期待したい考え」というのは逆に記者の「冗談」が新井選手には通じなかった、ということだろう。「『これからは、ことある度に連絡をとって、叱ろうと思っている』。池口法主が舌なめずりする」という部分については池口法主の品位を貶めると映ったかもしれない。ここは「『これからは、ことある度に連絡をとって、叱ろうと思っている』と池口法主も新井を元気づけたい考えだ」程度にしておけばまだよかったかもしれない。
もう一つ、新井選手が怒っているのは池口法主に直接電話取材したことだろう。池口法主が怒っていなければ別に新井選手が怒る筋合いはない、と思われるので、もしかしたら「舌なめずりする」という表現に池口法主が不快感を感じ、新井選手が池口法主の不快感を受け取り、揶揄された、と感じたとしても不思議ではない。池口法主がどのように思っているのかは全く分からないが、少なくとも新井選手にとっては池口法主をネタにした冗談は許せないものと映った可能性はあるだろう。
実際には全く問題にはなっていないようで、スポーツ紙にはまったく取り上げられていない。