自爆ネガキャン

私の大学時代、「シナリオ事件」というのがあった。私が入学する前年の学生大会だったと思う。「こ、これがシナリオだっ!!」というパンフが配られた。内容は自治会があらかじめシナリオを描いて学生大会に臨んでいた、という証拠品と、民主青年同盟のレジュメをくっつけて、「民青=日共による学生大会の引き回し」という批判を行なったものである。配布していたのはもちろん反民青左翼だった先輩。私も「どう思う?これ、ひどくねえか」というコメントとともにその「シナリオ」をもらった。この「シナリオ」の威力は絶大だったようで、これでドン引きした学生が学生大会に行かなかったため、学生大会が成立しない、というダメージがあったようで、民青の人が声を震わせながら「悔しい」と演説していたのが印象に残っている。
私の印象を言えば、民青の反論の通り、そういうシナリオを自治会があらかじめ作っておくのは、必ずしも悪いわけではない。そもそも自治会がほぼ完全に民青に握られているのは知らないものはいなかったはずだ。「日共による引き回し」というのは、反民青の左翼が思っているほど、学生大会に出てくる学生には影響を与えないだろう。「日共による引き回し」でドン引きすることはないだろうと思う。
なぜ学生大会が成立しなくなるほど学生はドン引きしたのか。私の印象を言えば、その「シナリオ」の下品きわまりない書き方である。「シナリオ」そのものではない。そこで書かれていたのは反民青の学生の動向を詳細に記している。そこでは「トロ」と書かれている。例えば「トロベンチで談笑、学大への打ち合わせか?」という感じである。「トロ」とは「トロツキスト」のことである。当時の自治会は自分に反対するものはすべて「トロツキスト」「極左暴力集団」「ニセ左翼暴力集団」というレッテルを貼り付けていた。自分に対立する学生を「トロ」呼ばわりするネガキャン、さらには尾行する粘着ぶり、そして「何が悪い」と開き直る態度が一般学生をドン引きさせたのである。そして彼らの反撃はなりふり構わぬネガキャンであった。「シナリオ事件」に関わった人を「トロツキスト」「極左暴力集団」と決めつけるビラを学内でばらまき始め、また自治会の掲示板にも掲示したのである。私は彼らと一応面識はあったので断言できるが、トロツキストではない。反レーニン主義であることは事実であるが、反レーニン主義トロツキー主義ではない。「極左暴力集団」でもない。暴力を振るうことはなかったし、「極左暴力集団」という言葉でカテゴライズされる「革共同中核派」や「革共同革マル派」ではもちろんない。ノンセクトである。
根拠なく自分の対立者に「レッテル」を貼り付ける行為の結末は、その年の学生大会で民青は議長と副議長ポストを失う、という失態を演じることになった。当然その年の学生大会の多数派は民青に批判的な学生で占められたのである。いわば与党から転落し、「政権交替」が起きたのである。