今日の講義の復習

今日は少しgdgdになってしまった。原因は抵当権と質券の説明で、文書の中の担保が抵当権なのに質権と考えてしまったこと。「向後亀鏡の為」ここに残しておく。

申うくる利銭事
合一貫文者
右、用途者、百文五文つゝの利分をそへて
来十月中けたいなくさた申へく候、御ひち
物ニハ、備中国かうつへの智仙房かひき
たんな、地頭并在家の旦那ともに入申すへく候
やくそくの月を過候者、此旦那をとられ
申へく候。其時一儀あるましく候、猶々無沙
汰之議候者、此状をうりけんとして、永とら
れ申へく候、仍為後日証文之状如件
 永徳三年三月三日 十円房玄有

要するに玄有が一貫文(十万円程度)の借金をしたのだが、利息が百文につき五文。十月に返済するという契約。
「御ひち物」として備中国上津井の「ひきたんな」つまり諸国の信者を熊野に引導、案内し、礼銭をとる権利を入れた。
この「御ひち物」が質権に相当するのか、抵当権に相当するのか、ということであるが、これはもちろん玄有はその権利を自らの手に残したまま担保に入れているわけであるから、ここでは債権者は「ひきたんな」に抵当権を設定していることになる。「ひきたんな」の果実は玄有が獲得するわけであるから、「利分」をそえて返済するのである。これがいわゆる「入質」つまり質権の設定であれば、債務者は果実を手にすることができない。果実を手にするのは債権者である。したがって中世では質権を設定する貸借関係では利息を付けない。
「やくそくの月を過候者、此旦那をとられ申へく候」というのは、これを質流れと考えたのが混乱の始まりで、これは債権の種類が抵当権から質権に切り替えられる、という話だろう。そう考えないと次の「猶々無沙汰之議候者、此状をうりけんとして、永とられ申へく候」が解釈できない。
「猶々無沙汰之議候者、此状をうりけんとして、永とられ申へく候」というのは、質権設定後も返済不能になった場合、質流れとして所有権が債務者の玄有から債権者に移転することになる。ちなみに質券を当時の言葉では「入質」「差質」という。抵当権は「見質」という。「入質」と「差質」の違いは質流れとなるかならないかの違い、つまり優先弁済的効力の有無で、優先弁済的効力のない「入質」は質権というよりは留置権に近いものであろう。「差質」は優先弁済的効力があるので、いわゆる質権と考えればいいだろう。
もう一度煩を厭わず文書を引用し、そこに設定されている物権を書き入れてみる。

申うくる利銭事
合一貫文者
右、用途者、百文五文つゝの利分をそへて
来十月中けたい(緩怠)なくさた申へく候、御ひち(質)
物ニハ、備中国かうつへ(上津井)の智仙房かひき
たんな、地頭并在家の旦那ともに入申すへく候(←抵当権設定)
やくそくの月を過候者、此旦那をとられ
申へく候。(←質権設定)其時一儀(議)あるましく候、猶々無沙
汰之議(儀)候者、此状をうりけん(売券)として、永とら
れ申へく候(←優先弁済効力の行使)、仍為後日証文之状如件
 永徳三年三月三日 十円房玄有

以上、極めて私的なエントリ。