第三話

「もしもし、田中さんの奥様ですね。私は身元は明かせません。ご主人の遺体の状況をお知らせします。傷口は五ケ所、喉の左右で頚動脈に達するもの、左右の手首、腹部です。法医学的見地から言えば自殺はありえません。頚動脈は一方を切れば一気に血圧が低下して脱力します。両方の頚動脈を切ることはかなり厳しいです。」「えっ!主人は自殺ではなかったんですか。手首と首の傷はためらい傷と聞かされていたんですけど・・・」夢子は相手が何をいっているのか、とっさにはのみこめなかった。「手首をザックリと切られた手で包丁が持てますか?両手首を切られているから非常ボタンさえ押せなかったかも知れない」それだけ言って電話は切れた。
続く。
この話はあくまでもフィクションであり、実在の人物・事件・団体とはいっさい関係がありません。