第五話

ニチフク新聞文化部記者荒岩虹子は福岡市内の小料理屋「きんしゃい屋」に、民政党衆議院議員馬場皆人の妻東子と向き合っていた。衆議院議員の妻が福岡に来る、ということで、案内を頼まれたのだ。総務省のキャリア官僚大黒秀一から直々の指名で荒岩記者が東子夫人の相手をさせられることになっていた。会うなり「内密に話がしたい」という意向で、荒岩記者の知り合いのきんしゃい屋に入った。
「田中さんの件で来ました」東子は切り出した。
「ああ、田中ちゃんの・・・。昔、主人の部下だったんですけど、東京に行って、ヘッドハンティングされ、証券会社で副社長までなった、って喜んでいたんですけどねぇ。まさか自殺してしまうなんて・・・。夢ちゃんもかわいそうに。あんな明るかった田中ちゃんが自殺するなんて事考えられなかったでしょうに」
そこまで言いかけた虹子の言葉を東子は遮った。「夢子さんの身に危険が迫っています」
続く。
この物語はフィクションであり、実在及び虚構の人物、団体、事件にはいっさい関係がありません。