第六話

田中の葬儀が終わって、夢子は放心していた。「あの沖縄の電話は?何が田中君にあったの?」
「ピンポーン」ドアのチャイムが鳴る。
「か、係長!」ドアの外には田中と夢子のかつての上司荒岩一味が立っていた。「な、何で・・・。」「葬儀の時にはゆっくり話せなかったからな。今から出られるか?」
外に出ると荒岩の部下の工藤三平と奥別府鉄男が立っていた。「すぐに車に乗ってくれ」というや、荒岩は夢子と元輝を助手席に押し込むと工藤と奥別府を後ろに座らせ、車を発進させた。
「ど、どうしたんですか?係長」「車のミラーを見てくれ。尾行している車がある」確かに車が一台ついてきていた。「え、ど、どうして?」「田中は自殺したんじゃない。何かの組織犯罪に巻き込まれたんだ。だから君の家にも監視が付けられていた。今から夜逃げをする」「ちょっ、ちょっと待って下さい。家は?子供の幼稚園は?」「大丈夫だ。入れ替わりに達矢君と二郎君、三郎君がやってくることになっている。彼らと社の者で引っ越しをする。今は一刻も早く君をこの状況から救い出すのが先だ」
車は金丸産業東京支社に入る。東京支社と言っても十人程度の小さなオフィスだ。奥にある厨房に通された夢子はさらに驚いた。「じ、常務!それに種ヶ島ちゃん!」金丸産業常務東山徹思と夢子の後輩の種ヶ島恵が立っていた。
「田中さん、話は荒岩君から聞いた。協力させてもらうよ。」「君は常務とともに博多へ向かってくれ。元輝君はしばらく種ヶ島君と行動する。今は尾行者をふりきるのが先だ」
夢子は種ヶ島と服を交換する。種ヶ島はいかにも常務の秘書らしい姿をしていた。その服を着て今度は夢子が常務秘書に変装するのだ。そして種ヶ島は夢子の服を着て夢子に変装する。
「よし、まず種ヶ島君、元輝君を連れて手はず通りに動いてくれ。そして工藤、奥別府君、種ヶ島君を尾行してくれ。」柔道二段の種ヶ島と剣道初段の工藤、そして元ラガーマン奥別府の三人が出て行くと、様子を窓からうかがっていた荒岩が「よし、常務、大丈夫です。出発して下さい」と声を掛けた。「夢子さん、いきますぞ」東山が声を掛け、二人は地下駐車場に降りていく。通用口に付けられた常務専用車の後部座席に乗ると「行ってくれ」と声を掛けた。車は急発進すると町の中へ消えていった。
続く。この話はフィクションであり、実在の人物、団体、事件、クッキン○パパにはいっさい関係ありません(笑)