神風の風景 第一章 敷島の大和心

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鹿屋に移動した343航空隊の菅野直大尉は鹿屋の士官食堂で懐かしい顔に出会った。フィリピン時代に部下だった土肥三郎中尉である。大阪師範学校(現大阪教育大学)出身の予備士官で、その後特攻隊を「志願」し、一人乗りのロケット特攻機桜花の搭乗員であった。
「隊長、明日は我々の部隊が出動します。我々のために隊長の紫電改隊が護衛してくださるそうで」
「何を言うか。おれたちは神様の露払いにすぎん」
菅野はそれだけ言うのが精いっぱいだった。
翌日、343航空隊は七十二機で奄美大島に向かった。桜花による特攻作戦を敢行する神雷部隊の護衛のためである。グラマンヘルキャットが上がってくる。グラマンの編隊は菅野部隊をかわして、後方の桜花を積んだ一式陸攻に狙いを付けている。
無線が入る。
「菅野一番。こちら鴛淵一番。本隊は前進す」
グラマンは菅野部隊に任せて鴛淵・林隊は特攻部隊を掩護する方針である。
「了解、こちら菅野一番」
左旋回してグラマン隊の後ろに回る。
「全軍突撃せよ」
指令を出すとそのまま後ろから隊長機を撃墜する。パラシュートで脱出するパイロットに目を取られていると、風防が砕け、右太ももに衝撃が走った。
「菅野一番、警戒せよ、敵はP51、ムスタング、こちら杉田二番」
菅野隊のベテラン杉田庄一上等飛行兵曹である。P51は紫電改より80キロくらい速い。
「杉田二番、こちら菅野一番。後方を見張れ」
菅野隊は「速度に優る敵には複数で戦え」というセオリーで戦った。特攻隊が突撃するのを見届け、菅野隊は帰投した。
鹿屋に到着した時には菅野は出血多量で意識がもうろうとしていた。
「特攻隊の戦果は?」
と尋ねたきり意識不明に陥った。目が覚めた時、輸血をされていた。
「軍医長、患者の意識が戻りました」
衛生兵の報告に体の大きな男が近づいてきた。
「久しぶりだな、菅野大尉」
男は吉田軍医中佐だった。
続く。