神風の風景 第一章 敷島の大和心

scene4
「久しぶりだな、菅野大尉」
吉田軍医中佐がにやりと笑った。
「その節は大分手荒くかわいがってもらったが」
菅野は「まずいヤツに会ったな」と思った。
「君は名隊長だそうだな。大酒のみだそうだから麻酔は効かないかも知れないが」
吉田はまたにやりと笑った。
「いや、麻酔はいりません」
菅野は強がりを言った。殴った男に弱みを見せたくなかった。
「麻酔を打たんとかなり痛むぞ。弾丸は骨の近くまで達している。それを摘出するんじゃからな」
「痛いなんて言っていたら特攻隊の英霊に申し訳ない」
「そうか、分かった。麻酔なしでいく。メス」
吉田は菅野の太ももを切り始めた。かなり深くまで達しているので時間がかかる。菅野はうめき声をもらす。
「どうかね、痛むかね」
菅野は強がりを言う。
「いや、いい気持ちだ。体が引き締まる」
無理に笑うと、「軍医長、体を起こしてください」と声をかけ、「たぁーっ!!」と気合いをかけた。
「これで大丈夫です。続けてください」
「あんたも相当なサムライだな」
呆れたように吉田は笑った。わだかまりは完全に取り払われた。
手術が終わり、病室に運ばれた菅野に杉田が声をかけた。
「隊長、いかがですか、傷は」
「蚊に噛まれた程度だ」
「そうですか。指揮所で土肥中尉の最期を聞いてきました。徳之島東で戦艦に突入、火薬庫に火が入って轟沈だそうです」
「そうか、いっちゃったか」
閉じた菅野の目尻から涙があふれてきた。
(隊長でも泣くことがあるんだな)杉田は菅野の涙を見ながら思った。
続く