特攻の風景 第一章 敷島の大和心

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343航空隊の司令部が集まっていた。第五航空艦隊司令部から343航空隊も特攻隊を出せ、という要請があったのである。その時菅野が吉田に方を支えられて入ってきた。
「ここは幹部の会合だ。君には用はない」
第五航空艦隊から派遣されてきた梨山中佐が言う。
しかし菅野はひるまずに言い返す。
「特攻の話でしょう。私は行きます。関は私の代わりに行ったようなものですから。しかし部下は一人も出しません。我々は一機でも多くの敵と戦うのが主任務です。それに反する任務で犬死にさせるわけには行きません」
中島中佐は「ほう」という顔をする。ややあって飛行長の志賀淑雄少佐が口を開いた。
「やるなら私が真っ先にやります。兵学校でのベテランで隊を組み、私が指揮官になります。そして『特攻、特攻』という参謀を私の後ろに載せて特攻というのが実際にどういうものかお見せします。隊長クラスが全ていったら、次に分隊士が行きます。兵学校出がいなくなったら司令が自ら行ってください。予備士官や下士官を先にやるような安易な気持ちでしたら、私は絶対に反対です」
第五航空艦隊の参謀である梨山中佐をにらみつけるように志賀少佐は一息に言い切った。
司令の源田実大佐がうなずき、ややあって言った。
「343空は特攻を出さない。あくまで制空戦に全力を注ぐ」
部屋を出ていく菅野と吉田に梨山が追いついた。
「菅野大尉、話が違うではないか。関行男中佐の跡を追うのではなかったのか。特攻を犬死にといったヤツに修正を加えたのではなかったのか。殴られたヤツにバカめと言えと言ってきたではないか」
吉田が返す。
「この私が殴られたバカです」
「何だと。貴様が特攻隊を犬死にといって菅野大尉に殴られた非国民か。軍人の風上にもおけないヤツめ。貴様、菅野大尉に何を吹き込んだ」
「わしはただマバラカットにいた海軍報道班員から聞いた関大尉の話をしただけです。それをどう判断するのかは菅野大尉でしょう」
「志賀少佐には何か言ったのか」
「わしは志賀少佐には面識はありません。志賀少佐には志賀少佐の意見があるのでしょう」
梨山は菅野に詰め寄る。
「菅野大尉、君は関行男中佐の同級ではないか。関中佐を冒涜するのを座視しているのか。後輩が昨日特攻で散華したそうだな。それで弱気になったか。転向したのか」
「待ってください、梨山中佐、関を冒涜することと特攻という作戦そのものを否定することとは違うのではないですか。特攻という作戦の批判を関への冒涜とすりかえないでいただきたい」
さらに吉田が言う。
「菅野大尉はそもそもセブ島にいた時から部下を出すことは出来ない、と主張していたことをご存知のはずだ。昨日から菅野大尉が変わった、それも後輩が散華した、とか、私に吹き込まれたとか、そういう見方は菅野大尉に失礼ではないですか」
「黙れ、軍医の分際で」
梨山は吉田にこぶしを飛ばそうとした。しかしその手は相撲部の選手の経験のある吉田に押さえられた。
「あなたも知っているはずの関行男中佐と久野好孚少佐の話をここでしますかな?昨日菅野大尉とじっくりした話を。」
吉田は梨山をにらみつけた。
続く