扇動されやすい人2

前回「だまされていたけど、真実を知った私」という扇動されやすい人の話をした。論理的な思考力を鍛える訓練をしたことがないのに、情報に触れた人が陥りがちな過ちであるが、これは何も今の学生に特有の現象ではない、と思う。
思えば私自身も学校では論理的な思考力を養う訓練は一切行なわなかったように思う。大学進学率が50%を切る、いわゆる進学校の出身ではないせいかも知れない。私がそういう訓練を受けたのは、予備校の小論文対策講座だった。
私は私大文系に進学した。もちろん小論文などない。そのせいか、論理的な思考力が欠落した学生が多かったように思う。私自身論理的な思考力がついていたとは胸を張っていうことはできない。そして概ね情報弱者である。
情報弱者で論理的な思考力が欠落しているが、その自覚のない人が大学に入って、「政治的な理由で教科書には書かれていないが、これが真の歴史である」とか、「馬鹿には理解できないが、これが真の歴史である」とか、「みんなマスコミに洗脳されているが、これが真の歴史である」とか、仄めかされると、当時は立派なサヨクが誕生したのだ。
扇動されやすい人がサヨクに走った理由は、当時言論界では「左翼」が幅を利かせていたからであり、大学に入って世話になるオリターに左翼が多かったからである。その頃はマルクス主義を標榜しないと「右翼」または「ブル」呼ばわり。いろいろなレッテルがあった。私は丸山真男に凝っていたのだが「近代主義者」、佐藤進一に凝ると「実証主義者」。これらはいずれも当時は「ウヨ」という意味である。ちなみに日共が日共とは異なる左翼に貼るレッテルは「ニセ左翼」「極左暴力集団」「トロツキスト」などなど。
私は今まで一度もマルクス主義は標榜したことはない。私の研究にマルクス主義的要素は皆無だからだ。しかし自分では左翼だと思ってきたのだが、周囲が左翼思想にかぶれるのは違和感があったし、「ブル」「近代主義者」呼ばわりには「それで結構」と思う気持ちはあった。あと江戸幕府を「絶対主義」的な政権という見通しを言うと「労農派」呼ばわりもあったな。
結局そういう安易に左翼思想にかぶれた人は、大学卒業の頃には概ね立派に更生していた*1。いろいろな理由があったように思うが、個人的な勘定のもつれとか、Xデーとか、ソ連崩壊とか。何よりも当時の左翼思想は「青年期」思想、今の言葉で言えば「中二病」の典型的な症状だったのだろう。今、情報弱者がネットにアクセスすると圧倒的に目に付くのは保守的な言論である。扇動されやすい人がかつては左翼的言論に魅かれ、今は保守言論に魅かれるのだ、と思う。

*1:私はこじらせて今に至る。