北条時輔関係史料1 文永2年(1265)3月1日「六波羅御教書」

新しいシリーズ。『鎌倉遺文』が使えるようになった記念として一人で『鎌倉遺文』の史料講読。自分の勉強用。中世史アーカイブスの「北条時輔関係文書目録」(「http://jparchives.sakura.ne.jp/catalog/db/tokisukemokuroku.html」←消えてます)に載せられている史料を自分で講読してみる。
まずは時輔発給文書から。
文永2(1265)年3月1日付けの「六波羅御教書」。「御教書」というのは奉書形式。「奉書」とは右筆が主人の意を奉じて出す文書の総称。御教書は三位以上のいわゆる公卿の奉書を敬して「御教書」という。源頼朝平盛時大江広元ら右筆の奉じた奉書形式の文書を発給している。頼朝が従二位に叙せられてからは「御教書」と呼ばれた。北条氏が実権を掌握すると、一般の政務や裁判に関する伝達文書は執権と連署の両人が連署して、本文の終わり(書止め文言)を「依仰執達如件」「仍執達如件」で結ぶ奉書式文書を用いた。これを「関東御教書」といい、六波羅探題北方と南方(それぞれ鎌倉の執権と連署に相当する)が連署する奉書形式の文書を「六波羅御教書」と呼ぶ。「六波羅御教書」のバリエーションとは「六波羅問状」「六波羅召文」「六波羅施行状」となる。
「問状」とは裁判において原告の提訴を受けて被告に弁明を求める文書。「召文」とは原告もしくは被告に出頭を求める文書。「施行状」とは探題が幕府の命令を取り次ぐ場合の御教書。
御教書以外には「請文」「下知状」「挙状」に加えて「北条時輔書状」がある。
まずは文永2年3月1日「六波羅御教書」(『鎌倉遺文』9226号文書)の本文から。

肥前国長嶋庄雑掌申所務条々、問注間事、重解状如此、所詮不日企上洛、可被致其明也。仍執達如件
文永二年三月一日 平(花押)
         左近将監(花押)
 薩摩次郎左衛門尉殿

読み下し。

肥前国長嶋庄雑掌が申す所務の条々、問注の間の事、重ねて解状此の如し。所詮不日上洛を企て、其れを明らかに致すべきなり。仍て執達件の如し。
文永二年三月一日 平(北条時輔
         左近将監(北条時茂
 薩摩次郎左衛門尉殿

現代語訳

肥前国長嶋庄雑掌が申す荘園管理の問題について、裁判を行うので、重ねて解状(上申文書)がこのように提出された。従って近々上洛を計画して弁明せよ。よって以上のように伝える。

肥前国長嶋庄は現在の武雄付近。多分武雄町大字永島付近と思われる。長嶋荘の地頭は橘氏。もともと平知盛の家人であった橘公業が途中で平氏を見限って頼朝に従い、奥州合戦で功績を挙げ、出羽国小鹿島(男鹿市)を得た。1236年本領の伊予国宇和郡西園寺氏に譲り、替え地として肥前国長嶋荘を得る。中村氏はその一族。
雑掌が訴えている、ということは、地頭との間にトラブルを抱えていたことをうかがわせる。ただ『日本史総覧』の「主要荘園一覧」をみても荘園領主の乱には「?」が付いているので、雑掌がどこの雑掌なのかがわからなかった。一応注意しておくとこれで引き下がっては史料購読の授業では叱られるであろう。授業で使う場合はもう少し突っ込んで勉強した方がいいだろう。私は家から出たくないので手元にある『日本史総覧 コンパクト版』でごまかす。
もう一つ、「薩摩次郎左衛門尉」というのがよくわからない。これも「わからない」では危険なので念のため。実際には『講座日本荘園史』とか『九州荘園史料 11 肥前長嶋荘史料』を繙く必要がある。
北条時輔六波羅探題南方に赴任したのは文永元年11月9日。時輔は1248年生誕なのでこの時数えで17歳。叙爵は文永2年4月21日なので、この文書が発給された段階では無位無官ということで「平」とだけ署名がある。
時輔の六波羅探題南方就任に関しては以前にも言及したが、鎌倉からの追放という見方と、六波羅探題強化のための南方再建のために得宗連署の兄という貴種を送り込んだという見方が併存している。この問題についても史料を講読していく過程で考えられたら考えてみたい。
ちなみに佐藤進一『古文書学入門』(法政大学出版局)と辞典類を用意しておくことをお勧めする。私は『古文書用語辞典』(柏書房)『新編日本史辞典』(東京創元社)『日本史総覧 コンパクト版』(新人物往来社)『鎌倉・室町人名事典』(新人物往来社)を使っている。大学であれば『国史大辞典』(吉川弘文館)とか大きい辞書を使えるので便利だろう。私は『時代別国語大辞典 室町時代編』(三省堂)を一応手元に持っているのでそれも使う。人文科学系の学問は辞書をいかに使いこなすかで決まる。本代はけちるべからず。間違ってもネットで済ませるようないい加減なことはしないように。ネット上の情報はかなり嘘が多い。ウィキペディアにも宗尊親王佐渡流罪になった、ということが堂々と書かれていて訂正されていない。私が訂正するのも面倒くさいので放置。下手に訂正して粘着されてもいやだしな。編集合戦になったらこちらも忙しいのにそんなことに時間と労力をかけていられない。専門板の情報だからと言って信用しないように。ほとんどでたらめ。ネット上でも信用できる情報もある。とりあえず「http://jparchives.sakura.ne.jp/index.html」を勧めておくが、掲示板でいささか(自粛)で現在閉鎖ということでどんどんコンテンツが消えている。今のうちにみておくことをお勧めする。