HALTAN氏への返答

HALTAN氏にははっきり言って私自身はご迷惑をおかけした、と思っているので、私からHALTAN氏に対して何かの議論を売るつもりは当面ないのだが、せっかくHALTAN氏が勉強の機会を与えてくださったので、HALTAN氏のご厚意に甘えてHALTAN氏の出された課題に少しお答えしたい。
HALTAN氏は私が別の所に付けたブクマ(「はてなブックマーク - http://d.hatena.ne.jp/zoppo03/20080812」)に対して批判の労をとられた。わざわざ拙ブクマに批判の労をとってくださったことをまずはお礼申し上げたい。せっかくの機会なのでいささか私見を披露してHALTAN氏のご厚意への返答としたい。記述に失礼の段があればご海容をお願いする。
HALTAN氏の記述(「http://d.hatena.ne.jp/HALTAN/20080813/p1」)をみていこう。
私のブクマの

「そういう言いかたや発想が「すぐに」でてくるのは、どうなんですか」って、累進課税制度もどうなんですか、ってこと?まあ今のネット言論の主流ってそうだけど。

という記述に対するHALTAN氏の批判。

(1)再分配や人権擁護を一般層や弱者までが必ずしも支持しない実情を無視して勇ましい扇動を行うことの虚しさ(例えば「そこまで言って委員会」の推測される主な視聴者層は誰なのか?)
(2)(1)とは相反するようだが、一転して「金持ちからふんだく」れというスローガンが支持されたとして、それが自分たち啓蒙的な層にまでブーメランしてくる恐ろしさはないのか?
この2点を考慮せずに「財源なんて金持ちからふんだくれば全然あるわけです」とか安易に言うのはいかがなものなのでしょうか? それとも、
(1)→実現性など関係ない、ただ自分たちの陣営の結束が固まればそれでいいのさ、ってことなの?
(2)→その時々で整合性のない大衆の嗜好を先読みすることにだけは長けたTVショーの司会者(シンボーでも古館でも誰でもいいですが)たちのように、自分は巧みにその場その場で都合のいい立ち位置を確保するから大丈夫さ、と多寡を括っておられるのか? 

実はHALTAN氏に限ったことではないのだが、私の主張に対する過大評価があるのではないか、と思う。私は思想的には極めて偏向したサヨクであるが、それを声高に主張するだけの根性と知識がないので、ほとんど沈黙している。私は日本中世史研究者という立場及び塾での国語教師という立場以外からの発言はなるべく抑制している。たまに興味半分でネットの情報や新聞の情報をコピペして論評する、という趣味的なことをやっているが、それはほとんど無責任なチラシの裏のメモ書きにしかすぎない。
私がHALTAN氏を批判しているのはただ一つ、「階級闘争史観」という言葉の定義だけ。私は個人的には再配分を強化せよ、という意見の持ち主で、それは一般層や弱者が支持しない実情を無視してまでも、所得の再分配機能を強化すべき、という意見である。それは日本経済の弱さが個人消費の弱さに起因する、という私個人の見通しに基づくものであるが、そのことについて経済学に関してかなり詳しそうなHALTAN氏にぶつければ秒殺されるのは目に見えている。私はこういう政策的なことでHALTAN氏に喧嘩を売ろうとは思わない。私の見解を提示してその妥当性をうかがい、ご教示を請うことはあるかもしれないが、喧嘩を売って勝てるほど甘くはない。私がこだわるのはただ一つ、「金持ちからふんだくれ」というのを「階級闘争史観」とイコールで結びつけるのはあまりにも粗雑な議論である、ということにつきる。「金持ちからふんだくれ」という動きはそれこそ室町時代徳政一揆から存在する。それを農奴階級の封建領主階級に対する階級闘争である、と解釈するのが「階級闘争史観」である。「財源なんて金持ちからふんだくれば全然あるわけです」というのは、それがプロレタリアート階級によってブルジョアジー階級に対する階級闘争であることもあり、それを指向しているならば「階級闘争史観」であるだろう。戦後すぐの日本共産党は確かにそれを指向した。もっとも日本共産党はインテリによる思想集団であることも手伝って、彼らは「階級闘争」を呼号しながらも、それが単なる「自分たちの陣営の結束が固まればいい」という方向性に流れ、決して階級闘争を貫徹したとは到底言えないことは、私よりもむしろHALTAN氏の方がお詳しいだろう。私もマスコミ内部の労働問題をHALTAN氏から教えられ、いろいろ勉強になった。
例えば「金持ちからふんだくれ」が階級闘争にならない場合を挙げれば、例えば税制をいじって、特に食料品や日用品に対する課税をゆるめ、ぜいたく品に高い税率をかける、ということをする場合。これはぜいたく品を多く買う金持ちから「ふんだくれ」ということであるが、何も「階級闘争」的な色彩はない。
HALTAN氏が、Wallersteinはサヨクだから「金持ちからふんだくれ」と思っているし、HALTAN氏がそれを支持しないと批判している、と思っていらっしゃるとすればそれは誤解である。私は「金持ちからふんだくれ」という主張をHALTAN氏に対して受け入れるように迫っているわけではないし、HALTAN氏に対してそれを主張しているわけでもない。私がこだわっているのはかかる政治的な問題ではなく、単に「金持ちからふんだくれ」というのを「階級闘争史観」とするのはいささか乱暴である、ということだけだ。だから「金持ちからふんだくれ」という政策の問題点をいくら論われても私としては逆に「なるほど、勉強させていただきます」としか言いようがない。従って今回のHALTAN氏の私に対する問い掛けへの返答としては「金持ちからふんだくれ、という議論の是非については勉強させていただきます。しかし金持ちからふんだくれ、というのは階級闘争史観という一言では片づけられないと思います」ということになる。
HALTAN氏にはわざわざ批判の労を取ってくださり、勉学の機会を与えてくださったことに感謝するとともに、ご厚意に甘えてしまって失礼な言辞を書き連ねたことを重ねておわび申し上げたい。