追加法289条

もう一つ「去留」関係の史料。建長5年(1253)10月1日に制定されたこの条文は「諸国郡郷庄園地頭代」に「存知」し、「沙汰」するように出された法令群の一部である。
本文

一 土民去留事
右、宜任民意之由、被載式目畢。而或称逃毀、抑留妻子資財、或号有負累、以強縁沙汰、取其身之後、如相伝令進退之由有其聞。事実者、甚以無道也。若有負物者、遂結解、無所遁者、任員数致其弁。不可成其身以下妻子所従等煩焉。

読み下し

一 土民去留の事
右、宜しく民意に任すべきの由、式目に載せられおわんぬ。しかるに或いは逃毀と称し、妻子・資財を抑留し、或いは負累ありと号し、強縁の沙汰を以て、其の身を取るの後、相伝のごとく進退せしむるのよし其の聞こえあり。事実たらば、はなはだ以て無道なり。若し負物あらば、結解を遂げ、遁るる所なくんば、員数に任せて其弁を致し、其の身以下妻子・所従等の煩いをなすべからず。

これを解析する。

一 土民去留の事
A 右、宜しく民意に任すべきの由、式目に載せられおわんぬ。
B しかるに1「或いは逃毀と称し、妻子・資財を抑留し」、或いは2「負累ありと号し、強縁の沙汰を以て、其の身を取るの後、相伝のごとく進退せしむる」のよし其の聞こえあり。
C 事実たらば、はなはだ以て無道なり。
D 1「若し負物あらば、結解を遂げ、遁るる所なくんば、員数に任せて其弁を致し」、2「其の身以下妻子・所従等の煩いをなすべからず」。

A 「土民去留の事」については「民意に任すべきの由」は「式目」(42条)に載せられている。
Bー1「逃毀」と称して妻子や資財を抑留する
B−2 負債があると号して無理やり「その身を取るの後、相伝のごとく進退」すなわち「下人」として地頭の私有財産編入してしまう
C ことが実(本当)ならば「無道」
Dー1 「負物」があれば弁済させ、
D−2 「百姓」本人と「妻子・所従」に「煩い」を及ぼしてはいけない。
ここでは「負物」、即ち年貢などの未済があったとしても、弁済させるだけで、百姓や妻子・所従などを下人化することを禁止する条文である。これは実は同時に出された条文とならべて議論されるべきであり、これだけを単独で取り上げるべきではない、と考える。