「関東新制条々」8−追加法344

ここからは仏事に関する法令。神仏に関する規定を最初に置くのは、『御成敗式目』を踏襲している。
本文。

一 可令如法勤行諸堂年中仏事等事
諸堂之勤、恒例有限。而供僧等、纔雖有勤修之名、更無抽誠信之志。被補其職之始、雖有法器之清撰、被補其職之後、多用浅臈之代官。然之間以尩弱手代、勤厳重御願。太不可然。禁忌并現所労之外者、用代官事、一切可令停止之。兼又供料不法未下相積之由、諸堂有訴訟云々。云雑掌云寺務、乍知行有限之役所、何可遁避応輸之済物哉。而於引付、雖有其沙汰、猶以不事行者、殊可有厳重之沙汰之由、重面々可被仰下引付。此上有不法雑掌者、隨奉行人注申、可被改易其職矣。

読み下し。

一 法の如く諸堂年中仏事等を勤行せしむべき事
A 諸堂の勤め、恒例は限りあり。しかるに供僧ら、わずかに勤修の名ありといえども、さらに誠信の志なし。その職に補せらるの始めは、法器の清撰ありといえども、その職に補せらるの後、多く浅臈の代官を用う。然る間尩弱の手代を以て、厳重の御願を勤む。
B はなはだ然るべからず。
C 禁忌ならびに現の所労のほかは、代官を用いる事、一切これを停止せしむべし。
D 兼ねて又供料不法未下相積の由、諸堂訴訟ありと云々。
E 雑掌といい、寺務といい、限りあるの役所を知行しながら、何ぞ応輸の済物を遁避すべけんや。
F しかるに引付において、その沙汰ありといえども、猶以て事行なわざれば、殊に厳重の沙汰あるべきの由、重ねて面々引付に仰せ下さるべし。此上不法の雑掌者、奉行人の注申にしたがい、その職を改易せらるべし。

AとDが現状認識。Aでは相応の地位についた僧が代官に丸投げしていることの指摘、Dでは供料の未済が問題になっている。
BではAの現状に対し「然るべからず」とした上でCで代官への丸投げを禁止している。
Eでは相応の地位にふさわしい負担を忌避することが批判され、Fでそれへの対処が問題にされている。
相応の地位にあるものが相応の責任を負う、というのが政治の基本である。それへの忠実な対応が「徳政」であり、辛酉革命を避ける重要な手段であったのである。「撫民」という統治能力を失った政権はその地位から滑り落ちる、という認識に裏打ちされた、彼らなりの真剣な営みであったのである。