最判H7・2・28(その5)

ここまで検討してきたのが前半。前半部では判例は外国人に参政権を付与することに関しては要請説の立場に立たず、要請説を退けることにより、否定説もしくは許容説の立場に立つことを明言した。後半では否定説・許容説のどちらに立つのかが明らかにされる。

このように、憲法九三条二項は、我が国に在留する外国人に対して地方公共団体における選挙の権利を保障したものとはいえないが、憲法第八章の地方自治に関する規定は、民主主義社会における地方自治の重要性に鑑み、住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しようとする趣旨に出たものと解されるから、我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるべく、法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではないと解するのが相当である。

憲法九三条二項の解釈は、在留外国人に対して地方公共団体における選挙の権利を保障したとはいえない、という要請説否定を明らかにしながら、地方自治における外国人参政権の位置づけを明らかにしていく。
地方自治に関しては判例は「住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しようとする趣旨に出たもの」として、永住者の意思を地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるべく、「法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではないと解するのが相当」と述べている。
つまり地方自治に限定して参政権を付与する法律を制定するのは、憲法上禁止されているものではない、という解釈である。逆に言えば、国政に関わる参政権を付与することは憲法上禁止されている、ということである。この「法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではない」という考え方が「許容説」と言われているものであって、地方参政権定住外国人に付与することは憲法上許容されている、という考えである。要請説に立てば、憲法上要請されているため、定住外国人地方参政権がない現状は違憲であり、現状を改めることが要請されるが、許容説では違憲ではないので、改める必要はない、という違いがある。否定説ではそもそも外国人にいかなる形であれ、参政権を付与すること自体が違憲となる。その「許容説」の立場は次の一文でさらに詳しく述べられることになる。