ネットに真実が(嘲)の事例

大阪産業大学に関する朝日新聞の阿久沢悦子記者の署名記事(「http://www.asahi.com/kansai/news/OSK201006020007.html」)。6月2日付け。

中国語の普及などのため、中国が海外の大学と提携して運営する「孔子学院」について、同学院を開設する大阪産業大学大阪府大東市)の重里(しげさと)俊行事務局長が、中国側の認可組織を「文化スパイ機関」などと発言したため、同大は1日、重里事務局長に辞職を求めた。中国人留学生らから抗議の声が上がり、中国側からも説明を求められていた。辞職が受け入れられなければ解任し、学内に謝罪文を掲示するという。

詳しい経緯。

大阪産業大によると、09年4月、孔子学院側に大学所有のビル(大阪市福島区)にキャンパスの移転を提案。同大学が資産運用に失敗し、経営の合理化に迫られたためだったが、孔子学院側は「上海外大や中国政府との協議が必要」と難色を示した。このため今年3月末、土橋(どばし)芳邦理事長名で「廃校せざるを得ない」と同学院に通知した。
このことが4月27日、大阪産業大の教職員組合と大学側の団体交渉で取り上げられ、出席した重里事務局長が「孔子学院は中国政府のハードな侵略ではないが、ソフト的な拡張主義」「漢弁は文化スパイ機関と認識しており、提携することは適当ではない」などと発言したという。

これについての大阪産業大学の見解。

大阪産業大学内部監査室は取材に対し、「重里事務局長は、インターネットで孔子学院について否定的な意見があることを知り、紹介するつもりでそのまま口にしてしまったようだ。言ってはならないことだ」としている。

「インターネットで孔子学院について否定的な意見があることを知り」
典型的な「ネットに真実が」タイプの失言。基本的なリテラシーが欠落しているがゆえの失言だが、問題は事務局長の重里俊行大阪産業大学教授がネットに触れたばかりの初心者ではなく、氏の専門を鑑みてもネットの専門家と言っていい人だということ。
結局「移転や廃止話に、経営合理化以外の理由はない」(土橋理事長)にも関わらず、「移転・廃校の白紙撤回」という仕儀になったのは重里教授の失言が原因で、大学に多大な損害を与える結果になったわけだから、何らかの責任をとる必要はあっただろう。
重里教授が孔子学院側のスパイで、失言をすることによって大阪産業大学孔子学院廃校を阻止するために体を張った、という陰謀論も出て来そう(笑)
しかし教授ともあろうものが「ネットの真実」というくだらないデマに躍らされるリテラシー能力の低下を満天下に示すということが恥ずかしい話ではあるが、実際我が身を省みても、大学教師というのは自分の専門には詳しいが、他のことには世間以下の見識しかないのにも関わらずそれを自覚していない、という側面もあるのも事実である。しかし重里教授は自身の専門が「インターネットによる経済・ビジネス・市場情報の分析」であるにも関わらず、専門分野でこのようなリテラシー能力を開陳するというのは、まずいのではないか、とも思う。
読売新聞によると同日に辞任(「http://osaka.yomiuri.co.jp/university/topics/20100603-OYO8T00378.htm」)。

中国語や中国文化の普及を目的に、中国が海外の大学と提携して運営する「孔子学院」を開設している学校法人・大阪産業大大阪府大東市)の重里俊行事務局長が2日、辞任した。学院の中国側の認可組織について「文化スパイ機関」などと発言したことから、中国人留学生らから抗議の声が上がり、混乱を招いた責任を取ったためとみられる。

混乱を招いた責任はあるだろう。事務局長の辞任は止むを得ないと思う。

重里事務局長は、4月に行われた教職員組合との団体交渉の席上、「孔子学院は中国政府のソフト的な拡大主義をとっている」「漢弁は文化スパイ機関と認識しており、提携することは適当ではない」などと発言し、中国人留学生らから土橋芳邦理事長に抗議の声が寄せられた。
その後、学院側と法人側が話し合い、9月に予定していた移転の白紙撤回を決定。5月31日には、同大学を訪れた上海外国語大の王静副学長に土橋理事長が事情を説明したという。
大阪産業大は学内に謝罪文を掲示する予定で、学園広報課は「外国のホームページでの批判的な意見を紹介するとの前置きで、そのように発言したようだ。廃校はないが、移転は今後も検討する」としている。

「外国のホームページでの批判的な意見を紹介するとの前置きで」
そもそも移転・廃校という非常に繊細な問題を話し合う交渉の場で、「ネット上の真実」という真偽不明な情報を持ち出すリテラシー能力の低さと、社会的な交渉能力の未熟さが命取りとなった、と言えよう。ただ大学教師にはそういうデマに容易にだまされる人は結構いて、しかもそれを安易に信じることによって、そのデマが信憑性を帯びるようになるわけであるから、責任は重大であると考える。
さらに言えば大学の事務局長という公的立場にある人間としての自覚を欠いている発言であり、「大学人」としての発言、あるいは言論の自由という問題ではない。ちなみに重里教授が大学教授としての地位を奪われる、ということになれば、それについては大学の自治の原則に照らして大問題であり、断固として私は重里教授を擁護するが、事務局長の辞任は当然と考えている。これを言論・表現の自由や大学の自治で論じる者は、世間知らずという誹りを免れないであろう。
追記
一応「外国のホームページで」と言っているのでここではないだろう、とは思うが、ソースらしきものを(「日本の大学の「孔子学院」は安全かー開設相次ぐ中国の対外宣伝工作機関」)。
もしここがソースであればそれこそ(ry)だが、ここで「外国のホームページ」らしきものが引用されているので、ここの可能性もある。だとすれば「これはひどい」というのが当てはまるだろう。