対訳『椿葉記』31

かくて院の御所にわたらせ給。さる程に内裏は廿日崩御なりぬ〈諡号称光院〉。践祚の事いまはひしひしとさだまりて、禁中は触穢なれば、三条前右府〈公冬公〉の亭を点じめされて新内裏になさる。俄に修理せられて殿舎などつくりそへらるゝとぞきこえし。同廿九日新内裏へ渡御なる。院の御猶子の儀にて践祚あり。よろづ旧規にかはらず。御歳十歳にならせまします。めでたさも世の不思議なれば天下の口遊にてぞ侍る。

称光院-

このようにして院の御所にお渡りになった。そのうちに内裏は二十日に崩御となった(諡号称光院〉。践祚の事、今は次々に定まって、宮中は触穢なので三条前右大臣の亭を接収して新内裏にした。俄に修理して殿舎などを作ったという事である。同廿九日新内裏へ渡御した。院の猶子という事で践祚した。全て旧規に変わらなかった。御歳十歳におなりになった。めでたさも非常に凄い事であったので天下の評判になった。