「諸国郡郷庄園地頭代、且令存知、且可致沙汰条々」1追加法282

前エントリで取り上げた追加法289は、建長5(1253)年10月1日に出された「諸国郡郷庄園地頭代、且令存知、且可致沙汰条々」の一部である。この法令では「撫民」ということが強調されている。追加法282から追加法294にまたがるこの一連の「条々」を逐一みていこう。
追加法282

一 重犯(山賊・海賊・夜討・強盗)輩事
右、彼輩者罪科也。不可不禁、須処罪科。但重犯者、贓物令露見、證拠分明之輩事也。以嫌疑無左右搦捕其身、及拷訊責取圧状、称白状令断罪之条、甚不可然。若背此儀、致理不尽之沙汰者、云地頭代、云沙汰人、可令改易其職也。

読み下し

一 重犯(山賊・海賊・夜討・強盗)輩の事
A 右、彼の輩は罪科なり。禁ぜざるべからず、須らく罪科に処すべし。
B 但し重犯は、贓物を露見せしめ、證拠分明の輩の事なり。嫌疑を以て左右なく其身を搦め捕り、拷訊に及び圧状を責め取り、白状と称して断罪せしむの条、はなはだ然るべからず。
C 若し此儀に背き、理不尽の沙汰を致さば、地頭代といい、沙汰人といい、其の職を改易せしむべきなり。

重犯罪人つまり山賊・海賊・夜討・強盗犯の処罰について。
まずAの部分で重犯罪人は重罰(おそらく処刑)を求めている。
Bが注目すべきポイントであるように思われる。「重犯」は重い刑罰が科されるだけに慎重な検討が要求される。贓物、つまり盗んで隠したもの、つまり物証が出てきて、証拠が固まらなければ有罪となることはない、ということである。容疑だけで逮捕し、拷問によって圧状(無理やり書かせた調書)をとって、白状(自らの意思で書かれた文書)と称して断罪することを禁止している。
Cではこの法令に背いたものは地頭代を改易する、としている。
冤罪を辞さずに犯罪を処断すべきか、証拠を重視し、冤罪の発生を抑えるべきか。鎌倉幕府の「撫民」は明らかに後者を指向している。