「諸国郡郷庄園地頭代、且令存知、且可致沙汰条々」2追加法283

この一連の法令は地頭の苛政をチェックし、撫民を実現しようとする意図に貫かれている。『中世政治社会思想』(岩波思想体系)においては「ここでとくに正員にかわって在庄し現実の検断権行使者である地頭代を名指ししたことは、法令の実際上の効果を高めるため」と解説されている。幕府が地頭を飛び越えて地頭代にまで口を出すのは異例であると考えられていたのである。しかし北条時輔文書をみると、けっこう六波羅御教書は地頭代にも出されている。その先鞭ともいうべき法令だったのだろうか。本郷和人氏は「幕府の視線はついに在地領主層を突き抜け、一般の庶民に届いたのである。幕府は初めて民を統治する存在として現れる」と評する(『新・中世王権論』新人物往来社)。
追加法283の本文。

一 殺害(付刃傷)人事
右、如式目者、依口論犯殺害者、其父其子不可懸咎云々。而如風聞者、寄事於左右、至于親類所従等、称殺害被管、令処罪科云々。所行之企、甚濫吹也。然者、於刃傷殺害人者、可召禁其身許也。至于父母妻子親類所従等者、不可懸咎。如本可令安堵也。

書き下しと解析。

一 殺害(付刃傷)人事
A 右、式目のごとくば、口論によって殺害を犯さば、其の父・其の子に咎を懸くべからずと云々。
B しかるに風聞のごとくば、事を左右に寄せ、親類・所従等に至って、殺害被管と称して、罪科に処せしむと云々。
C 所行の企て、はなはだ濫吹なり。
D 1 しからば、刃傷殺害人においては、其身ばかりを召し禁ずべきなり。2 父母・妻子・親類・所従等に至っては、咎を懸くべからず。本のごとく安堵せしむべきなり。

Aは式目10条の確認である。式目10条では口論など突発的な殺害の場合には縁坐させることを禁止し、父祖の敵を殺害した場合、父祖が知らなくても同罪、所職や財宝を奪う目的であれば、父が知らなければ縁坐に処してはならない、と定められている。
Bは現実を指摘している。親類・所従を「殺害被管」(殺人犯の被官人)と称して罪科に処するということがあるようだ。
Cで「濫吹」と断じる。
Dの1で「刃傷殺害」犯については本人の身柄のみを拘束することを命じ、2で関係者への縁坐を禁じている。