「帆別銭ノート」を読む

画像は今川義元(上)。

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戦国IXAを最初にプレーする時には、四人の武将の中から一人を選ぶ手順がある。現在は変わっているが、当初は槍の木下藤吉郎、弓の今川義元、馬の本多忠勝、兵器の明智光秀の中から選ぶ。8鯖では今川義元を選んだ。今川義元も意外とカードが多く、上の他に特、極、天とある。第6章では天が登場して大殿の一人になっている。
黒嶋著作第七章「帆別銭ノートーその変容と中世海運ー」の書評作成ノート。とりあえず今川氏真判物が出てくるので、今川特集にしてみた。
中世の列島の沿海を行き交う船の帆の大きさに応じて賦課されたのが帆別銭である。それは相田二郎以来、津料=関銭=通行税として理解されてきた。一方関銭については神への初穂料に起源を求める研究が網野善彦らによって 進められてきた。しかし関所における関銭徴収の正当性を初穂料のみに求められるか、という問題点があり、現状では「経済関」説と「初穂徴収」説が融合しないまま、並立している状況である、と黒嶋氏は指摘する。黒嶋氏は従来津料(=関銭)の一種として把握されてきた帆別銭を、中世の海事習慣を踏まえて再検討することの必要性を主張する。
そこで、黒嶋氏は津料についての検討を行う。
黒嶋氏は津料を「港湾で、入港した移動型船舶に対して、工場的に賦課された通行料」と定義する。そして船荷への賦課と船体への賦課の二つを津料の基本形として措定する。そしてそう考えた場合、津料を関銭として神への手向けとする関所=初穂説をそのまま当てはめることはできない、と指摘する。というのは、津料は港湾の維持管理の代償としてその徴収を認められるのであり、それは即座に神仏への「手向け」を意味しない、という。しかし船の側が津料を支払った理由について、「経済的関所」説でも通行料徴収の正当性までは提示できていない、とする。港湾使用料としての津料が成立する事情を探るためには、関の起源論としての「関所=初穂」説を踏まえながら、同時代の史料の中で手がかりを求めるべき、とする。
中世には寄船慣行が存在した。それは遭難して岸辺に漂着した船とその積荷は沿岸住民の物となる、という慣習法である。そしてそれは港湾に入港した船を漂着したと言いがかりをつけて船体と積荷を没収する事件が裁判記録や宣教師の記録に散見される。いわば中世の港湾は暴力と隣り合わせの場所であった。入間田宣夫氏は中世を「コネと暴力の世界」と評したが、それは港湾においても例外ではなかった。黒嶋氏が挙げている事例は、「関東御免」つまり鎌倉幕府のお墨付きを盾に入港料の支払いを拒んだ船に対して「漂倒船」だとして船体と積荷を没収した例である。 津料とは、金品を納めることによって自らの安全を保障してもらうためのものだったのである。その金額は在地の秩序に委ねられたものであった、と考えられている。在地慣行に支えられることで津料は独自の生命を保ち得たのであり、津料の禁止令が出されたこともあるが、その背後にある寄船慣行の禁止や、船舶航行の安全を遂行しない限り、その実効性は限定されたものになった。
黒嶋氏の考える「津料」は「海賊」と同じものなのだろうな、と思う。ある海賊が支配する海域を通行する時には、通行料を支払って海賊の上乗りを得て航行の安全を保障されたのである。通行料を支払わずに通行する者に対しては海賊はその船体及び積荷を強奪する。これを禁止するためには、中世の慣行を改変し、船舶航行の安全を保障する圧倒的な武力が必要なのである。