対訳『椿葉記』6

さて内裏は伏見殿と御中よく申通られ侍る。その比、将軍は幼少にて、執事細川武蔵守頼之朝臣天下の事は執沙汰申程に、内裏には近臣ども内談ありて、御譲国のさたやう/\風聞せしかば、伏見殿より栄仁親王践祚の事、後深草院以来正嫡にまします御理運の次第を、日野中納言教光卿を勅使にて武家へ仰らる。御返事は聖断たるべきよしを申す。

内裏-後光厳院
伏見殿-崇光院
将軍-足利義満
武家-幕府。当時は幕府という言葉はなかった。当時そう言われていないから、幕府はなかった、という愚者はいないことを喜びたい。
聖断たるべきよし-皇位に介入して自爆した鎌倉幕府の二の舞を恐れたか、丸投げ。下手をして皇統が分裂し、第二の両統迭立となったらいやだな、ということか。

さて後光厳院はすこういんと仲良くしていらっしゃった。そのころ将軍は幼少であったので、執事の細川頼之が天下の事を取り計らっていた間に、後光厳院の近臣が内々に相談して、譲位のことがだんだん噂に聞こえてきたので、崇光院より栄仁親王践祚の事について、後深草院以来正嫡であり、皇位を継承すべき事を日野教光卿を勅使にして幕府に仰せられた。返事は天皇の採決次第である、ということであった。